台湾との一体化を進める福建省を視察する習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)

台湾有事が話題になる機会が増えている。 東京大学の川島真教授は「台湾本島への本格的な武力攻撃を伴う台湾有事は当面ないと考えます」という。 その理由は大きく2つあるという。 果たしてそれは何なのか。 ただし、そのことは中国が台湾の解放と統一を諦めることを意味するわけではない。 この環境下で日本は何をするべきなのか。

(聞き手:森 永輔)

最近、台湾有事(中国が武力による台湾統一を試みる事態)が話題に上る場面が増えています。川島さんは、この蓋然性をどう考えますか。

川島 真・東京大学教授(以下、川島):私は「台湾有事」の定義によって答えが異なると考えています。台湾本島への本格的な武力攻撃を伴う台湾有事は当面ないと考えます。

川島 真(かわしま・しん)
東京大学教授。専門はアジア政治外交史、中国外交史。1968年生まれ。92年、東京外国語大学中国語学科を卒業。97年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学後、博士(文学)。北海道大学法学部助教授、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻の准教授を経て、2015年から現職。(写真:加藤 康)

 本格的な武力攻撃というのは、例えばこんなシナリオです。中国人民解放軍が台湾本島に数百発の弾道ミサイルを同時に打ち込む。その後、空挺(くうてい)部隊が台北を襲い、降り立つやいなや首都機能を制圧する。周辺では、事前に台湾入りしていたスパイが蜂起する。中国寄りの人々が新政権を打ち立て、中国共産党がこれを承認。その後に中華人民共和国と統一、ということです。しかし、この強行シナリオは考えにくい。

 他方、「台湾有事」を、「一面で武力および武力の優位性をみせつけ、台湾内部に広まった友好人士の活動により統一に導く」と定義するならば十分に起こり得ると考えます。「仮に戦争になっても、台湾は(米軍の支援を得ても)中国に軍事的にかなわない」と武力をみせつけることで、すでに台湾内部に対する浸透工作で広がっていた中国寄りの世論の後押しの下に、台湾の政権の意思や民意を中国統一へと向けさせる。その過程で、台湾と米国、台湾と日本との関係を離間する。そして実際には戦争をすることなく統一を実現する。このシナリオならあり得ますし、実際、習近平(シー・ジンピン)政権が考える理想だと思います。

本格的な武力攻撃を伴う統一が当面はない2つの理由

 なぜ、本格的な武力攻撃を伴う方法を取らないのか。理由は2つあります。第1は、習近平政権は失敗が許されないことです。2022年秋に予定される中国共産党大会で、総書記として3期目を続投できるか否かが決まります。場合によっては、かつて毛沢東が務めた「党主席」を復活させ、これに就任し、権力をさらに集中させることも考えられます。この党大会での決定が翌2023年、国家主席として3期目の続投の可否についても影響します。これら一連の続投を確実にするまで、習近平国家主席は失点するわけにはいきません。

 ならば、2022~28年を任期とする3期目に入れば、本格的な武力攻撃を伴う統一に着手できるのか。確かに2027年は中国人民解放軍の100周年ではありますが、それも容易ではありません。台湾に正面から攻め込んで焦土とし、2300万人の人々に大きな犠牲を与えることも辞さないならば、できるかもしれません。しかし、そんなことをすれば台湾の人々の激しい怒りを買い、その後50年も100年も統治する上での障害になります。これが第2の理由です。

続きを読む 2/5 緊張が高まっているのは台湾周辺に限らない

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