G7首脳会議での記者会見に登場したジョー・バイデン米大統領(写真:AP/アフロ)
G7首脳会議での記者会見に登場したジョー・バイデン米大統領(写真:AP/アフロ)

G7首脳会議で、7カ国の首脳は対中国で結束を示した。「台湾」や「人権」はもちろん、「中国」にも言及した。いずれの国も巨大な市場を抱える中国との関係を悪化させたくはない。しかし、自由や人権、法の支配を重視するスローガンを共同で示した。これには、バイデン米大統領がリーダーシップを発揮した。「America is back」を他の首脳が歓迎した。しかし、真価を問われるのはこれからだ。10億回分のワクチン接種など、掲げた政策をいかに実行するかが問われる。同会議を、中林美恵子・早稲田大学教授に総括してもらった。

(聞き手:森 永輔)

中林さんは、今回のG7首脳会議でどこに注目しましたか。それに対する評価はいかがでしょう。

中林:私は2つのことに注目しました。1つは、対中国で7カ国がどこまで結束できるか。

<span class="fontBold">中林美恵子(なかばやし・みえこ)</span><br>早稲田大学教授。専門は米国政治。米ワシントン州立大学修士(政治学)、大阪大学で博士(国際公共政策)を取得。元衆議院議員。経済産業研究所研究員や財務省財政制度等審議会委員など歴任。米国在住14年のうち10年間は米連邦議会上院予算委員会の連邦公務員(共和党)として国家予算編成を担った。(写真:加藤 康)
中林美恵子(なかばやし・みえこ)
早稲田大学教授。専門は米国政治。米ワシントン州立大学修士(政治学)、大阪大学で博士(国際公共政策)を取得。元衆議院議員。経済産業研究所研究員や財務省財政制度等審議会委員など歴任。米国在住14年のうち10年間は米連邦議会上院予算委員会の連邦公務員(共和党)として国家予算編成を担った。(写真:加藤 康)

 やはり陰の主役は中国です。航行の自由など既存の国際秩序に反する行動を取る中国にどこまで“もの申す”ことができるか。いずれの国も中国市場は重要で、怒らせたくはありません。そこを抑えて、どこまで総論(編集部注:共同宣言を指す)で踏み込むことができるか。個別の施策を今後どのように実行していくかを考えれば、二の足を踏む部分が出てきますから。

 試金石は「台湾」と「人権」です。どちらも共同宣言に盛り込むことができました。7カ国は相当努力したと評価します。

バイデン大統領は「たぬきの化かし合い」をまとめ上げた

 2つ目の注目点は、ジョー・バイデン米大統領がどれだけリーダーシップを示すことができるかでした。G7を軽視していたドナルド・トランプ大統領(当時)とは「違う」ことを示せるか否か。

 この点で、バイデン大統領はトランプ大統領とは180度異なることを示しました。バイデン大統領が発した「America is back」のメッセージは鮮やかでした。

 このリーダーシップの問題は、第1の注目点と密接に関連します。対中国で結束を示すことができたのは、バイデン大統領および米国のリーダーシップがあったからこそです。

 今回のG7首脳会議は、例えるなら、たぬきの化かし合いです。いずれの国も、民主主義を守るため結束が必要だと訴える一方で、経済では中国とうまくやっていきたい。この点は欧州諸国に限らず、米国も日本も同じです。しかし、政治においてスローガンは重要です。バイデン大統領はこのスローガン(編集部注:共同宣言を指す)をうまくまとめ上げたと評価します。イタリアやドイツ、カナダは共同宣言をまとめる過程でかなりごねたと聞いています。それを抑えこみ、まとめ上げた。

 バイデン氏が大統領となり米国が従来の外交に戻ってきたことを歓迎する“バイデン・ボーナス”で、他の国々が台湾や人権への言及を受け入れた面もあるでしょう。

 バイデン大統領が5億回分の新型コロナウイルスワクチンを、確保に困っている国々に提供するとぶち上げたことも、リーダーシップの一環として評価します。重要なのは「ひもなし」、すなわち条件を付けることなく提供するとした点です。これは、中国との大きな差異化につながります。米国務省は5月、台湾と国交を結ぶ国へのワクチン供給を拒否しているとして中国を批判する声明を発表しました。

共同宣言に「中国」の文字は4回

共同宣言を読むと、「China」の文字は4回しか登場しません。中国は必ずしも陰の主役ではなかったのではないでしょうか。

中林:「4回も」と捉えることもできます。特定の国を名指しで非難するのは非常に重い行為ですから。「台湾海峡」に言及したことが注目されました。私も注目しました。しかし、「中国」と書き込むことは、それ以上の重みがあります。

中国以外に名指しされているのは、イラン、北朝鮮など。かつてビル・クリントン大統領(当時)やジョージ・W・ブッシュ大統領(同)が「ならず者国家」と呼んだ国々です。

中林:国連安保理の常任理事国でもある中国を、ならず者国家扱いしたと解釈することもできるでしょう。それほどに重い言及なのです。

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