イージス・アショア(陸上イージス)代替案の総コストを巡る議論が再び沸騰している。防衛省が閣議決定前に約9000億円と試算していたことが報じられたからだ。この金額はイージス・アショアの2倍に相当するが、稼働時間は3分の1にとどまる。時を同じくして、F-15戦闘機の改修も予算の執行が停止された。初期費用が、当初の見込みの3倍、2400億円に増えることが明らかになったからだ。香田洋二・元海将(元自衛艦隊司令官)は「防衛省が『得られる防衛能力』と『かかる総コスト』の定量分析をきちっと行っていないことが原因」と喝破する。防衛装備の調達をめぐる課題と改善策を聞く

(聞き手:森 永輔)

航空自衛隊の主力戦闘機F-15

F-15戦闘機の改修に関わる2020年度予算390億円が執行されなかったことが4月に明らかになりました。防衛省はこの改修のため2021年度予算に210億円強を計上する予定でしたが、これも見送りました。香田さんはこの点に注目されています。

香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮過程を終了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など(写真:大槻純一)

香田洋二・元海将(以下、香田):私は2020年6月にイージス・アショア(陸上イージス)配備計画が停止になって以来、防衛装備をめぐる予算の在り方について、いろいろ発言してきました(関連記事「ブースターは一部、陸上イージスが無理筋なこれだけの理由(上)」)。F-15戦闘機の改修予算の執行停止も、イージス・アショアの配備計画停止も原因は同じところにあります。どちらも、日本でしか使用しない機能を盛り込んだ装備の購入を、米政府とFMS(対外有償軍事援助)契約しているのです。私はこれを改めるべきだと考えます。

スタンド・オフ・ミサイルの運用は日本の独自仕様

F-15戦闘機は航空自衛隊が運用する主力戦闘機で、現在201機を運用しています。防衛省はこのうち70機を近代化(機能向上)する予定。新たに付加する能力の1つにスタンド・オフ・ミサイル*の運用があります。具体的には、米国が開発した空対地巡航ミサイル「JASSM-ER」(射程約900キロ)を装備できるようにする計画です。

*:長距離射程の精密誘導ミサイル。相手の射程の外から発射することを想定

香田:F-15の近代化は米国も進めています。しかし、スタンド・オフ・ミサイルの運用能力は日本独自の要求としてF-15に追加するものです。台湾有事の懸念が高まる中、台湾と一衣帯水の位置にある南西諸島の防衛力向上に役立てるためと考えられます。

 FMSは、米政府が安全保障政策の一環として、武器輸出管理法に基づいて同盟国に装備品を有償で提供する仕組み。米政府と同盟国政府が契約の主体となります。

FMSは課題がいろいろ指摘されています。価格や納期は米政府が決めるため、価格が高くなりがちで、納期が米国の都合で遅れることも少なくない。

香田:確かにそういう面はあります。しかし、評価できる面もあります。米軍制式装備の多くは、米国にしかできない手の込んだ開発作業により完成度が高いうえ、実戦での使用実績があります。「使える」という点では他の追従を許しません。導入後の運用の継続についても米政府が保証します。

 しかし、日本が独自に追加する能力はこのメリットの対象となりません。F-15へのスタンド・オフ・ミサイル運用能力の付与は米軍の制式装備でもありませんし、米軍には今後導入する計画もありません。要するにF-15改修は実質的に、自衛隊の要求による新規開発と同じなのです。装備数の多少にかかわらず、開発に必要な手続きと試験を全て実施しなければ実戦力にはなりません。

 つまり日本の特注装備を、米軍が既に制式化した装備をFMSで購入するという、今までと同じやり方で導入しようとしたのです。特注装備の場合、契約時点で製品は存在しないので正確なコストの見積もりが困難なことが一般です。開発が進むにつれ、予期せぬ事態が起こります。その都度、新たな資金をズルズルとつぎ込む、国民の税金を蟻(あり)地獄に投げ入れるような事態が懸念されるということです。

 今回のF-15の改修予算執行停止は米国の製造企業が精査したコストが日本側の見積もりより大幅に高くなったがゆえに起きたと推察します。

F-15改修予算の執行停止は、まさに価格オーバーが引き金になりました。当初約800億円と見積もっていた初期費用が2400億円に膨らむと米国側から連絡があったのを受けて、停止することになったと伝えられています。

香田:そうですね。岸信夫防衛相は3月16日に日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)に出席した際、初対面のロイド・オースティン米国防長官にこの問題を提起し、協議のやり直しを求めました。しかし、これは「筋違い」というものです。先ほどお話ししたように、F-15改修は自衛隊の特注装備の導入であって、米軍装備の導入ではないのです。

 米国防省や米空軍ができることは、製造会社に対して自衛隊が困っていると伝えることくらいでしょう。極端な言い方になりますが、米軍が影響力を製造会社に行使することは違法行為にもなりかねません。

 ということで、F-15の改修価格が予定を上回った問題は、FMSが抱える問題とは別物です。

続きを読む 2/5 陸上イージス代替案の価格帯性能比は6分

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