以上の情報は、日本のミサイル防衛にも影響を及ぼします。第1に、北海道の北にいるロシア軍がすでにキンジャールを配備していることが懸念されます。欧州の実戦で利用されたのですから極東に存在してもおかしくありません。第2は、北朝鮮が実験を繰り返す短距離弾道ミサイル「KN23」も、その機動性に限界がある可能性を示唆していることです。

KN23は「ロシアのイスカンデルに似ている」と形容されるミサイルですね。

能勢:そうです。ここでいう「イスカンデル」は、キンジャールの原型である9M723を指します。「イスカンデル」は、変則軌道の9M723弾道ミサイルだけでなく9M728巡航ミサイルも発射できる西側にはあり得ないミサイル・システム全体の名称です。

形状が似ていることをもって、「同様に機動性も高くない」と想定できるものなのですか。

能勢:もちろん断定はできません。けれども、噴射口のベーンと可変翼がほぼ同軸に動くKN23の機構も9M723と似ているとの情報があります。そうであれば、9M723の技術がKN23にも適用されている、もしくは模倣されていると考えることができるでしょう。

日本にとっては朗報ですね。

能勢:事はそれほど単純ではありません。9M723とキンジャールの速度を比較すると前者が最大マッハ5.9、後者が最大マッハ10といわれます。よってキンジャールは、小回りする機能を犠牲にすることでより速く飛翔できるようにしている可能性があります。

 また、注意しなければならないのは、極超音速兵器の位置づけが米国とロシアでは異なることです。米国は先ほど引いたバイデン氏の発言が示唆するように、核兵器と同じ目的を達成するための非核兵器と位置づけています。これに対してロシアは、極超音速兵器に核弾頭を搭載します。キンジャールは核/非核両用です。この意味でも、日本は決して安心できる環境にはありません。

来年にも、ウラジオストクに極超音速「巡航ミサイル」

ロシアは、キンジャールのほかにどのような極超音速兵器を開発もしくは運用中ですか。

能勢:極超音速巡航ミサイル(HCM)の「ツィルコン」があります。米国が実験に成功したARRWをはじめとする極超音速滑空体(HGV)と異なり、スクラムジェットエンジンを推進力にして飛翔します。ツィルコンは海洋発射型で、アドミラル・ゴルシコフ級フリゲートやヤーセン級潜水艦に搭載される予定。アドミラル・ゴルシコフ級フリゲートはロシア太平洋艦隊に2023年から3隻配備される予定になっています。ロシア極東のウラジオストクに来年にも、極超音速兵器が配備されることになるわけです。

ロシアは5月28日にツィルコンの実験を実施。最高速度マッハ9で1000km飛翔し、白海の標的に命中させました。ウラジオストクと東京は約1070kmしか離れていません。ヤーセン級潜水艦が少し日本海に出れば射程に入ってしまいます。キンジャールのみならずツィルコンも「すぐそこに迫る」危機となります。

能勢:ロシアがもたらす極超音速兵器の脅威はまだ終わりではありません。ICBM(大陸間弾道ミサイル)に搭載する極超音速滑空体(HGV)「アヴァンガルド」があります。ロシアは今年4月20日、ICBM「サルマート」の発射試験に初めて成功しました。射程1万8000km、搭載可能な弾頭重量10トンの超大型ICBMです。サルマートはアヴァンガルドを最低でも3発搭載することができます。

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