米国が同盟国に提供する核の傘はさまざまな核兵器で構成されます。最も大規模なのは戦略核兵器。ARRWをはじめとする極超音速兵器でこれを代替できるものですか。

能勢:すぐには無理かもしれません。しかし、極超音速兵器の命中精度が高まるにつれ、大きな破壊力は必要なくなります。同一の攻撃対象を同時に多数の極超音速兵器で攻撃すれば、合計の破壊力を大きくすることができますから。将来的には戦略核の破壊力を代替できるようになるとも考えられるのでしょう。

 当面は、グアムに展開するB-52H爆撃機用の巡航ミサイル「AGM-86C」をARRWで置き換える、もしくはAGM-86CとともにARRWを使用するのだと思います。AGM-86Cは、爆撃機B-52Hから発射される巡航ミサイルで射程は約1100km。弾頭は通常弾頭です。中国軍の基地をたたく用途が想定されます。AGM-86Cは巡航ミサイルなので飛翔(ひしょう)速度が遅いのが課題です。それゆえ、より速く飛び、中国の防空システムに迎撃されることのないミサイルが待ち望まれています。この期待に沿うのがARRWだと言えます。

空だけでなく、海からも陸からも極超音速兵器

 米軍は、空軍が進めるARRWと並行して、陸・海軍が共同で「C-HGB(共通-極超音速滑空体)」の開発に取り組んでいます。日本に影響を与えるのは、これを先端部に据える海軍のミサイル「CPS(通常即時打撃)」でしょう。まずは潜水艦に搭載する予定で、ヴァージニア級ブロックV攻撃型原子力潜水艦(原潜)に2025年に配備する。続いて、ズムウォルト級駆逐艦に2028年に配備する計画です。

 米陸軍がC-HGBを先端部に据えるべく開発するのは地対地ミサイルのLRHW(長距離極超音速兵器)です。射程は2775kmで最高速度はマッハ17といわれます。

これだけの射程があれば、仮に沖縄の米軍基地に配備すると南シナ海のどこにでも届くことになります。

ロシアは3月、「キンジャール」をウクライナで実戦投入

能勢さんは、ウクライナに侵攻中のロシア軍が極超音速兵器を使用したことに注目されています。

能勢:そうなのです。ロシアが極超音速兵器を世界で初めて実戦に投入しました。

 発射したのは「キンジャール」。9M723という陸上発射型の短距離弾道ミサイルを爆撃機の「Tu-22M3」や、攻撃機の「Mig-31K」「Su-34」から発射できるようにしたものです。ロシア当局は3月、「ウクライナにおいてMig-31からキンジャールを発射。最高速度マッハ5で2000kmを飛翔し弾薬庫に命中した」と発表しました。10~12発発射したと報道されています。

キンジャールは弾道ミサイルなので、「極超音速兵器ではないのでは」と疑問を持たれる読者がいるかもしれません。ここでは、極超音速兵器を以下の特徴を持つ兵器と定義しましょう。(1)マッハ5以上の高速、かつ(2)低い軌道を飛翔する。着弾前を含め、飛行途中で(3)軌道を変える能力を備える。(1)(2)ゆえレーダーで探知するのが困難、さらに(3)のため、飛行途中の未来位置、着弾地点を計算するのも難しい。よってミサイル防衛システムで迎撃するのが困難。

 なんともやっかいな兵器です。

能勢:キンジャールは、世界で初めて実戦で利用された極超音速兵器となったわけですが、米軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長は「そのスピードを別にすれば、ゲームチェンジャーとなるようなものではない」との評価を明らかにしました。定義(3)軌道を変える能力について「さほどのものではない」と見ていることを示唆する発言です。「10~12発を発射した」と報道されたことは、キンジャールの飛翔コースを米軍は把握できていることを示唆します。

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