人々の目がウクライナにくぎ付けになっている中、ロシアは3月、「キンジャール」を発射し、世界で初めて極超音速兵器を実戦に投入した。これに対抗するように、米国が5月14日 、ARRWの発射実験に成功。さらに、5月28日にはロシアが「ツィルコン」の発射実験をし、やり返した。極超音速兵器をめぐって両国が激しくしのぎを削っている。フジテレビジョンの能勢伸之・上席解説委員に聞いた。
(聞き手:森 永輔)

ウクライナ紛争が、解決の筋道の見えないまま長引いています。人々の耳目がウクライナにくぎ付けになっている中、能勢さんは、その影で始まった極超音速兵器をめぐる米国とロシアのつばぜり合い、そして核搭載極超音速兵器に向かう北朝鮮の開発動向に注目されています。
能勢伸之・フジテレビジョン上席解説委員(以下、能勢):米国が5月14日、米空軍が開発を進める極超音速兵器「AGM-183A ARRW」の実験に成功したと発表しました。
ARRWは「極超音速滑空体(HGV)」と呼ばれる兵器ですね。発射後、ブースターによって加速。切り離し後はグライダーのように滑空する。弾道軌道とは異なる不規則な軌道を取ります。
能勢:実験では、爆撃機B-52Hから発射した後、先端部分の切り離しに成功。先端部はその後、音速の5倍(マッハ5)の速度を達成しました。

その後、ジョー・バイデン米大統領が来日し、岸田文雄首相と5月23日の首脳会談に臨みました。この後の共同声明に「『核兵器のない世界』に向けて協働する意思を改めて確認した」と盛り込んでいます。米国はARRWの実験成功があったから、この文言を盛り込むことができたのかもしれません。
「拡大抑止」と「核兵器のない世界」を両立させる切り札
共同声明においてバイデン大統領は「核を含むあらゆる種類の能力によって裏付けられた、日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する米国のコミットメントを改めて表明」しました。これと「『核兵器のない世界』に向けて」の協働は矛盾しているように読めます。前者は「核で日本を守る」、後者は「核をなくす」と言っているわけですから。
能勢:その矛盾を解消する手段がARRWである可能性があります。
バラク・オバマ米大統領(当時)が2009年のプラハ演説で「核兵器のない世界」を提唱しました。翌年2月、副大統領(同)だったバイデン氏は「我々は(核兵器と)同じ目的を達成する複数の手段を開発している」と発言しています。この「複数の手段」の1つがARRWだと考えられます。
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