安倍政権は2015年、大きな反対運動の中で安保法制を成立させたが……(写真:AP/アフロ)

中国をターゲットとする「敵基地攻撃能力」は得策か?)も併せてお読みください。

台湾有事が話題になる機会が増えている。これに日本はどう対処するのか。2015年に安保法制が制定され、集団的自衛権の限定行使まで認められた。しかし、政府や国会は決断し行動できるのか。決められず、立ち往生する懸念がある。そのとき、邦人に被害が及べば、拙速な対応を促す「反動」が生じかねない。他方、米国の動向からも目が離せない。「米国が台湾を見捨てる日」が来ないとも限らない。尾上定正・元空将に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

台湾有事の際、自衛隊が行動するためには、まず「事態」認定が必要になります。重要影響事態なのか、存立危機事態なのか、はたまた武力攻撃事態なのか。2015年に安全保障法制を制定する際に、これらの「事態」が定められました。

 まず重要影響事態と認定されるケースとして、どのような場合が考えられますか。重要影響事態は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」。このとき、米軍や「国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊」に後方支援を提供できるとしています。

重要影響事態法

第一条 この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「重要影響事態」という。)に際し、合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。

自衛隊による米軍支援が始まるとき

尾上定正・元空将(以下、尾上):政府が重要影響事態と認定するのは、台湾と中国の間で現実に武力衝突が生じた場合だと思います。中国によるサイバー攻撃やグレーゾーン事態にとどまる場合、日本も米国も介入するのは難しいでしょう。

尾上定正(おうえ・さだまさ)
米ハーバード大学アジアセンター上級フェロー。
1959年生まれ。元空将。1982年に防衛大学校を卒業し、航空自衛隊に入隊。 統合幕僚監部防衛計画部長、航空自衛隊幹部学校長、北部航空方面隊司令官、航空自衛隊補給本部長などを歴任し、2017年に退官。著書に『台湾有事と日本の安全保障』など

 中国は現在、台湾に対する軍事力を用いた威嚇の度を強めています。仮に台湾がこれに音を上げた場合も介入するのは難しいでしょう。

「音を上げる」というのはどのようなケースですか。

尾上:中国軍の航空機が台湾海峡の中間線を越えて台湾側に侵入するようになりました。2019年4月まではほとんどなかったことです。そして今では台湾の防空識別圏内で頻繁に訓練を行っています。先ほどお話ししたように、台湾の東岸に太平洋側からアクセスする偵察もするようになりました。

 台湾軍は中国のこうした行動に、スクランブル(緊急発進)で応じてきました。しかし、あまりにその頻度が高いため応じきれなくなっています。2020年10月に台湾の国防部長(大臣)が、年初からのスクランブルがその時点で2972回、費用が255億台湾ドル(約9億ドル)に達していると議会に説明しています。台湾は、全ての中国軍機にスクランブルで対応するのを諦め、いまは地対空ミサイルパトリオットの警戒レベルを高めることと組み合わせることでなんとかしのいでいます。

 しかし、中国による軍事的な圧迫は今後も継続すると思われます。台湾軍が対応に疲弊したり、十分な訓練ができず士気や練度が低下したりすることも考えられる。また、国防予算のさらなる増加を強いられる政権への批判を利用し、中国が世論戦や心理戦、またサイバー攻撃を巧みに実施して台湾国内を不安定化させることもあり得ます。これらの非軍事な作戦を併用するハイブリッド戦で、中国に宥和的な政権ができる日がくるかもしれません。中国が熟柿(じゅくし)作戦によって勝利するということですね。そうなると、日本も米国も介入する機会すら得られないことになります。

 従って、中国のハイブリッド戦に対する台湾への支援策についても日米で検討する必要があります。

武力衝突に至る前のステップとして、海上封鎖をすることは考えられませんか。

尾上:あり得ます。前回に紹介したフィリップ・ゼリコー氏とロバート・D・ブラックウィル氏は米外交問題評議会で発表した「The United States, China, and Taiwan : A Strategy to Prevent War」 リポートで、米国が台湾に供与する武器の輸送を取り締まるべく船舶検査をする可能性を指摘しています。

 この段階でも重要影響事態に認定するのは難しいでしょう。この場合の船舶検査は法執行行為(編集部注:いわゆる警察行為)で、軍事行動ではありません。しかし、中国人民解放軍が実施するブロッケード(海上封鎖)の段階に至ると、日本のシーレーンの安全航行に関わる問題なので、重要影響事態を発令し得ると思います。

中国と台湾が武力衝突すると、どのようなことが起こるのでしょう。

続きを読む 2/4 日米には、共同作戦計画をつくる仕組みがない

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1982文字 / 全文7392文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「森 永輔の世界の今・日本の将来」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。