核については、中国の「核能力」にも言及しています。菅首相とバイデン大統領との首脳会談後の共同声明には見られない表現です。

前嶋:中国の核能力に触れた理由は2つあると考えます。1つは、ここでも、これまでの外交・安全保障政策を維持する立場をアピールした。「両首脳は、中国による核能力の増強に留意し、中国に対し、核リスクを低減し、透明性を高め、核軍縮を進展させるアレンジメントに貢献するよう要請した」とあります。「核兵器のない世界」を目指す流れの中で、中国に核軍縮を呼びかけ、それを好感する層に訴えかけたものと言えます。

 第2は、日本とウクライナとの対比です。ロシアが核兵器を保有しているから、米国はウクライナを助けることができなかった、との見方があります。これに対して「中国も核兵器を持っている。それでも、米国は日本を防衛する。日本はウクライナとは異なる」という米国の意思を示したと言えます。

 国内世論への配慮として、共同声明で広島と沖縄に言及しました。23年のG7サミット(主要7カ国首脳会議)を広島市で開催すると両首脳が確認したのです。首脳会談後の記者会見で岸田首相が明言しました。同様の意図で、沖縄の基地負担軽減にも触れました。

 大きく捉えれば、バイデン大統領をこのタイミングで日本に招いたこと自体が世論対策だったと捉えることができるでしょう。

「技術」は今回の首脳会談の隠れテーマ

共同声明において、もう1つ気になる言葉がありました。「技術」です。安全保障をめぐる文脈において、戦闘の新領域であるサイバー、宇宙に続けて「新興技術」に触れています。また、経済成長を阻む課題として、気候変動、感染症と並べて「新たな技術」に言及しました。

前嶋:技術は今回の日米首脳会談における「隠れテーマ」と言っても過言ではありません。同盟関係においては陸・海・空の軍隊による合同演習が重視されます。これに加えて、新たな技術をともに開発し、シェアし、守る――ことが今日、重要性を増しています。

日米首脳会談に先立って5月21日に行われた米韓首脳会談においても、共同声明に次のようにあります。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領とバイデン米大統領は次のことを理解する。同盟の将来は、21世紀の課題を解決する共同の努力によってその姿が明らかになる。この意味において、両首脳は重要な新興技術やサイバーセキュリティーにおいて協力を深め拡大する。また、民主主義の原則と普遍的な価値にのっとって先進技術を開発し、使用することを誓う。

前嶋:そうですね。米国は韓国やオーストラリアといった他の同盟国とも技術開発協力を深めていく考えです。

4月には、米国・英国・オーストラリアの3カ国による安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」が極超音速兵器を共同開発すると発表しました。極超音速兵器は、戦いの在り方を一変する「ゲームチェンジャー」になり得るといわれる新興技術です。

 技術を共同開発するこうした流れは、技術のブロック化につながりませんか。

前嶋:そのとおりです。ここ数年、技術のブロック化が進んでいます。ただし、ブロック化する範囲がより細かくなっています。ブロック化して守る技術と、そうでない技術をより分けてブロック化する。

 その1つの表れとして、米国と中国が最近、再び貿易を拡大しています。貿易してはいけない製品を指定する一方で、貿易してもよい製品の取引は拡大させているのです。

 何をブロック化するか、その選別は今後ますます精緻になっていくと考えます。バイデン政権は、18年に課した対中制裁関税を見直す作業に着手しました。これも、何もかもに関税を課すのではなく、実効性を伴う製品に限定していく方針の表れと言えます。もちろんインフレ対策が背景にありますが。

次ページ 台湾防衛は失言にあらず、「曖昧」の中で立ち位置を変えた