前嶋:そうですね。実はこの表現はこれまでの日米首脳会談でも使われてきたものです。しかし、従来は「専守防衛」に徹する、「可能な範囲」で防衛力を充実させる、という文脈で用いられていました。なので、矛の役割や反撃能力と解することはありませんでした。

 ところが、今回は「日本が防衛力強化に強くコミットした」「あらゆる選択肢」を取り得る、というコンテクストで読むことになります。すると、専守防衛の見直しや、盾と矛の役割見直しを示唆していると解することもできるわけです。

 とはいえ、「あらゆる選択肢」や「二国間の役割及び任務を進化」が具体的に何を指すかは現時点では分かりません。ただし、さまざまな情報から判断すると、政府は核シェアリングまでは想定していないと考えます。岸田首相も「政府として議論することは考えていない」と発言しています。

米国は日本を「守る」、ウクライナとは異なる

 第2は、米国が日本防衛に強くコミットしたことです。

 共同声明には「中国」の文字が8回登場します。日本にとっての最大の脅威が中国だからです。ロシアよりも中国、北朝鮮よりも中国です。

 ウクライナ情勢が楽観視できない状況であるにもかかわらず、日米首脳会談や日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の首脳会議を日本で開催したのも、中国への意識、そして日本防衛へのコミットを表していると言えます。

共同声明において「拡大抑止」という表現が使われています。2021年4月に実施した菅義偉首相(当時)とバイデン大統領との首脳会談後の共同声明には使われていませんでした。これには意図があるのでしょうか。

前嶋:ロシアによるウクライナ侵攻が続く中で、極めて有効な表現だと思います。ウクライナは米国が拡大抑止を提供する対象ではありません。そのため、今回の状況に陥りました。これに対して日本は、米国が拡大抑止を提供する対象なので「守る」という米国の意思を表していると思います。

 拡大抑止という表現は、安全保障の教科書には載っているものの、広く知られる言葉ではありませんでした。それが、ウクライナ危機によって皆に知られるようになりました。

 拡大抑止は通常兵器による抑止だけでなく、核の傘も示唆します。米国は核兵器を保有しています。核保有国である米国が、日本に事が起きたときには本格的に介入する可能性があることを再確認したわけです。

核保有国である米国が日本への拡大抑止を再確認した――。その理解に基づいて共同声明を読み進めると、「『核兵器のない世界』に向けて協働する意思を改めて確認した」という部分は矛盾するように読めますね。

世論を意識し、「核なき世界」「核軍縮」を訴える

前嶋:それが3つ目のポイントにつながります。国内世論への配慮です。今夏には参院選挙が予定されていますし。従来の外交・安全保障政策との「擦り合わせ」と言い換えてよいかもしれません。岸田政権はタカ派になったわけではない、ということをメディアや国民、自民党内のリベラル派に訴える意図でしょう。

 岸田首相は、第1のポイントで指摘したように、日本自身の防衛力強化を掲げました。岸田政権が今回の会談で最も打ち出したかった点です。けれども国内には、日本の防衛力強化や防衛費の増額など安全保障政策における“前のめり”の動きに抵抗を感じる人もいます。そういう人向けに、従来の防衛政策が継続していることを示すため、「核兵器のない世界」を目指していることを訴えたのです。岸田首相は先の大戦で原爆が投下された広島出身でもありますし。

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