米韓首脳会談が行われた。韓国政治に詳しい木宮正史・東京大学教授は「韓国にとって80点の出来」と評価する。北朝鮮との関係改善を図るための窓を維持することができたからだ。ただし、対中政策では「台湾海峡」への言及を受け入れざるを得なかった。米国は、韓国に課していたミサイルの開発規制の撤廃にも合意した。中国を射程に入れるミサイルを韓国が開発することを、「マイナスではない」と判断したわけだ。同教授は「韓国はレッド(中国)チーム入りした」との見方は間違いだと指摘する。(聞き手:森 永輔)

首脳会談に臨む、文在寅・韓国大統領(左)とジョー・バイデン米大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)
首脳会談に臨む、文在寅・韓国大統領(左)とジョー・バイデン米大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

木宮さんは、5月21日に行われた米韓首脳会談で、どこに注目しましたか。

木宮:4月16日に行われた日米首脳会談との違いに注目しました。対北朝鮮政策、対中政策と、日本と韓国は共通の課題を抱えているからです。結果は、米韓首脳会談の方が、国内向けにも国際社会に対してもショーアップに成功しました。

<span class="fontBold">木宮正史(きみや・ただし)</span><br> 東京大学教授。専門は朝鮮半島地域研究、韓国政治外交論。<br> 1960年生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科の博士課程単位取得退学。韓国高麗大学大学院政治外交学科の博士課程修了(政治学博士)。
木宮正史(きみや・ただし)
東京大学教授。専門は朝鮮半島地域研究、韓国政治外交論。
1960年生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科の博士課程単位取得退学。韓国高麗大学大学院政治外交学科の博士課程修了(政治学博士)。

 国内において、韓国メディアは今回の首脳会談を高く評価しています。対北朝鮮政策において米国を説得し、話し合いで非核化を進める窓口を維持することができたからです。韓国内では「米韓の考えの違いが明確に表れてしまうのでは」という懸念がありましたが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は米韓の違いが表面化しないようにすることに成功しました。

 具体的には「朝鮮半島の完全な非核化」という表現を盛り込んだことです。韓国は「北朝鮮の非核化」という表現をなんとしても避けたいと考えていました。北朝鮮が嫌うこの表現が入れば、今後の話し合いの扉を閉じてしまいかねません。

 国際社会に対してアピールしたのは、新型コロナワクチンの委託生産をめぐる米韓合意です。韓国は「ワクチン生産のハブになる」と打ち出し、米国もこれに協力する姿勢を示しました。生産体制が整い、輸出が始まれば、世界の健康を守ることに貢献します。これは、めぐりめぐって、韓国世論を鼓舞する力にもなるでしょう。

 菅義偉首相とジョー・バイデン大統領の首脳会談は、マスク越しの地味な会談であったこともあり、国内的にも国際的にも、大きなインパクトをもたらすことはありませんでした。これに対して文在寅大統領はマスクなしの表情豊かな首脳会談を開催することで、少なくともショーアップに成功。今後、支持率が上昇することも期待できます。もちろん、もともとの期待値が低かったこと、打ち出したことを実現できるかどうかは今後の課題である点は差し引いて評価する必要がありますが。

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