中国を狙う敵基地攻撃能力の取得は得策か?

米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約が2019年8月に失効したのを受けて、米国は地上発射型中距離ミサイル(射程500~5500km)を保有できるようになりました。中距離弾道ミサイルの開発に着手したとされます。これを中国への抑止力として第1列島線上に配備することが取り沙汰されています。米国から要請があった場合、日本はどうすべきだと考えますか。

尾上:地上に目に見える形で中距離ミサイルを配備することは、抑止力の向上を図る上で大きなインパクトを持ちます。置く場所を考えると日本しかありません。フィリピンはドゥテルテ政権の姿勢が安定しません。オーストラリアは距離的に遠すぎます。

 しかし、現実にはかなりの困難を伴います。国民の合意を得るのが難しい。配備地の地元住民のみなさんは、懸念されることが多々あるでしょう。イージス・アショアの配備でも地元の合意を得る作業が不調に終わりました(関連記事「ブースターは一部、陸上イージスが無理筋なこれだけの理由(上)」)。

日本が独自に中長距離ミサイルを配備し、中国を対象にしたいわゆる敵基地攻撃能力を備えるという選択肢もありますか。

尾上:こちらも国民の合意を得るのは容易ではありません。私は、北朝鮮の核ミサイル脅威に対して日本は独自の攻撃能力を持つべきであり、その有力な選択肢が弾道ミサイルだと考えます。けれども中国に対しては、軍事的にみても必ずしも得策とはいえません。中国が配備する中距離ミサイルの量に比べて、日本が備えることができる装備は圧倒的に少ないからです。まして、2027年までと期限を切って考えるならば、その難易度はさらに高まります。

中国は、空母キラーと呼ばれる中距離弾道ミサイルDF-21D(射程2150km)を50基以上、グアム・キラーと呼ばれるDF-26(射程5000km)を100基以上保有しているとの報道があります。DF-26は日本列島全体を射程に収めるものです。

 米太平洋軍のハリー・ハリス司令官(当時)が2017年4月、「中国は2000発以上の弾道ミサイル・巡航ミサイルを保有している。そのうち95%は、INF条約加盟国であれば違反に相当する」と議会で発言し、注目されました。

尾上:中国が擁するそれほど膨大な中距離ミサイルに対抗するのは米軍でも非常に難しい。従って、中国に対しては日米同盟による抑止力をいかに高めていくかという戦略的視点で日米のRMC(役割、任務、能力)を考える必要がある。日本はすでに保有している対艦誘導弾などの充実を図り、日本に向かってくるミサイルや航空機、艦船の迎撃、また基地防衛に力を入れた方がよい、と考えます。

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