中国空軍が日本領空を通過して台湾東岸を攻撃

抑止力を高めるために何が必要でしょう。

尾上:こちらも意志と能力に分けてお話ししましょう。

 日本は米国とともに既に意図を示しています。冒頭で言及された、日米共同声明において「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記したことです。日米のこの意図が習近平国家主席やその政策を立案するスタッフに浸透するよう、今後も繰り返し伝える必要があると考えます。

 能力面では、南西諸島から台湾に至る第1列島線の防衛力を日米で高めていく必要があります。習近平政権が台湾の軍事統一を試みた場合に負担しなければならないコスト、もしくは被るリスクを高める。

日本の南西諸島の防衛力を高めることが、台湾有事の抑止につながるのですか。

尾上:つながります。例えば、中国空軍が日本の南西諸島上空を経由して台湾東岸を攻撃する可能性があるからです。台湾の地形は、西は平地、東は山地になっています。中国は西の平地は短距離弾道ミサイルで容易に攻撃することができる。しかし、東の山地を攻撃するのは難しい。台湾軍はこの地の利を生かして、東部の花蓮県や台東県に地下シェルターを装備する基地を設け、戦闘機などの装備を隠す作戦を立てています。

 中国空軍はこの台湾東部の基地を攻撃するのに、より東の太平洋側から回り込む必要がある。既に中国は、爆撃機H-6を使って宮古海峡*を抜けて太平洋側に進出する訓練を実施しています。3月29日には多数の中国軍機が台湾周辺と同時に、宮古・沖縄本島間を飛行する「2正面訓練」も実施しています。こうした中国空軍の攻撃への備えを宮古島などに配備することで、中国がこの作戦を実行する際のリスクを高めることができます。

*:宮古島と沖縄本島との間の海峡

陸上自衛隊は鹿児島県・奄美大島や沖縄県・宮古島、石垣島に、12式地対艦誘導弾(SSM)や対空ミサイル「03式中距離地対空誘導弾改善型(=03式中SAM改)」を備えた陸上自衛隊の部隊を配備しています。

尾上:この取り組みは評価しますが、まだ十分とはいえません。

政府は2020年12月、自衛隊の12式地対艦誘導弾の射程を延長する作業に着手すると閣議決定しました。現行の200kmから900km、1500kmへ伸ばすとされています。

尾上:これは抑止力の向上に寄与するでしょう。より遠くまで攻撃することができれば、それだけ中国艦船が近づきづらくなりますから。中国の爆撃機H-6に搭載できる対地巡航ミサイルCJ-10の射程は1500kmあります。南西諸島防衛はこれにも対抗できるようにすべきです。巡航ミサイルにも対処できるミサイル防衛体制や射程の長い空対空ミサイルの装備を速やかに進める必要があります。

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