台湾総統選と米大統領選が中国の意志を刺激

 ここまで中国の意志と能力についてお話ししました。これに加えて台湾と米国の事情も、中国の意志を刺激する可能性があります。

 台湾で2024年、次の台湾総統選が予定されています。このときに、与党・民進党の頼清徳・副総統が立候補する可能性があります。同氏は台湾独立を強く訴えてきた人物。総統選で独立を打ち出すことが考えられます。そうなれば、中国の逆鱗(げきりん)に触れるでしょう。

 もちろん、民進党はそんなばかなことはしないでしょうし、米国も抑えようとするにちがいありません。しかし、李登輝の例もあることです。

 同じく2024年に米国でも大統領選が実施されます。これが混乱することが予想される。トランプ前大統領を支持する勢力が今でも力を持っており、米国内を分断しています。仮にトランプ氏が再選されることになれば、現政権と次期政権の引き継ぎ期間に政治的空白や混乱が生じ、中国に「今ならできる」との誤解を与えることもあながち否定できません。

中国と台湾との経済関係が抑止力として働く可能性はありませんか。中国は、輸入の約8%が台湾からです(2019年実績。以下同じ)。半導体をはじめとする主要な電子部品が含まれている。これが途絶えれば、中国経済に大きな打撃を与えることになります。米国が介入する事態になれば、受ける打撃がさらに大きくなる。米国との取引は輸入で約12%、輸出で約17%を占めています。中国国民はこれらを失うことに耐えられるでしょうか。共産党政権が一党独裁を敷いているとはいえ、中国国民の世論を無視することは難しくなっています。

尾上:経済が抑止力として働く要素は間違いなくあります。ブッシュ政権でコンドリーザ・ライス国務長官(当時)の顧問を務めた安全保障の専門家であるフィリップ・ゼリコー氏とロバート・D・ブラックウィル氏は米外交問題評議会で発表したリポート「The United States, China, and Taiwan : A Strategy to Prevent War」の中で、核抑止でいうMAD(相互確証破壊)*と同様の役割を経済が果たすと指摘しています。

*:敵の第1撃を受けた後も、残った戦力で相手国の人口の20~25%に致命傷を与え、工業力の2分の1から3分の2を破壊する力を維持できていれば、相手国は先制攻撃を仕掛けられない、というもの。米国のロバート・マクナマラ国防長官(当時)が1960年代に核戦争を抑止する戦略として提唱した

 しかし、中国共産党にとって台湾統一は統治の正当性を担保する「1丁目1番地」です。習近平国家主席は2019年1月の演説で、「中華民族の偉大な復興へのプロセスにおいて台湾同胞を欠くことはあり得ない」と強調しました。その習近平政権は、統治の正当性と経済のどちらを優先するでしょう。抑止が働くかどうかには疑問符を付けざるを得ません。

 よって、われわれは習近平政権が台湾の武力統一にチャレンジする気を起こさないようあらゆる手段を尽くす必要があります。

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