
中国が核軍拡を進めているとみられる。その全貌はベールに包まれている。戦術核を保有しているのか。保有しているとすれば、どのように使うのか。「日本にとって、現状では米国の核の傘が必要。だが、その役割を縮小する努力を諦めてはならない」。この矛盾を解くカギは何か。原子力を巡る安全保障に詳しい、小林祐喜・笹川平和財団研究員に聞いた。
(聞き手:森 永輔)
(前編「G7首脳が核軍縮で初の合意文書、それでも消えない核秩序崩壊の懸念」はこちら)
中国が、核戦力および核物質をめぐる不透明さを修正しないと、どのような事態が起こりますか。
小林祐喜・笹川平和財団研究員(以下、小林氏):軍拡ドミノを引き起こす恐れがあります。中国が核軍拡を進めているとみられる一方で、その規模は分からない。こうした状況で、中国と国境紛争を抱える隣国インドはどのような行動を取るでしょうか。少なくとも抑止力として機能するレベルの核戦力を整えようとするでしょう。インドが核軍拡に動けば、それに応じて、インドと対立するパキスタンも核軍拡に動きます。
核軍拡はコストがかかります。パキスタンはその資金を確保すべく、核技術をブラック市場に流すかもしれません。それがイランの手に渡れば、イランによる核兵器保有がまた一歩現実に近づく。そうなれば、次にはイスラエルが……。

核物質を巡る日本の査察技術を、対中外交に生かせ!
今回の核軍縮に関する広島ビジョンにおける「透明性の向上」は核物質も対象にしているでしょうか。
小林氏:核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に言及しました。高濃縮ウランやプルトニウムなど核物質の生産を禁止し、核兵器の増加を防ぐことを意図した条約です。日本は今後、核物質の透明性向上についても訴えていくべきです。そのための高い技術を保有しているからです。
日本は、原子力発電における使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出すことが許された唯一の非核兵器国です。取り出したプルトニウムを高速増殖炉で再利用することが許された唯一の国でもあります。このため、青森県六ケ所村に設置した施設での再処理から、高速増殖炉「もんじゅ」や「常陽」での再利用に至る過程で、核物質が軍事転用されないよう、厳重な査察体制を国際原子力機関(IAEA)と共に構築してきました。
六ケ所村の施設については、米エネルギー省から「今後、核燃料サイクルに取り組む国は、この施設における査察の取り組みをベンチマークにして進めるべきだ」とのお墨付きを得るなど高く評価されています。ここで使用している専用の監視カメラや監視システムは輸出できるレベルです。
よって、中国に対して「福建省の高速増殖炉について、その透明性を証明しませんか。日本の技術で支援します」と誘えばよいのです。日本は、この高い技術力を外交に生かしていく視点を持つ必要があると考えます。
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