台湾有事が言及される機会が増えてきた。果たして、いつ、どのような条件が整ったときに起こり得るのか。渡部悦和・元陸将は「『冷戦2.0』と言われるがそれは誤りだ。すでに『超限戦』が始まっている」との見方を示す。その様相は多岐にわたるが、8つの大きなシナリオを想定できる。 その最悪のシナリオとは……

(聞き手:森 永輔)

演習に臨む台湾軍。中国の影響が台湾軍の中にまで浸透しているといわれる(写真:AP/アフロ)
演習に臨む台湾軍。中国の影響が台湾軍の中にまで浸透しているといわれる(写真:AP/アフロ)

台湾有事が話題になる機会が増えています。菅義偉首相とジョー・バイデン米大統領が4月16日に行った日米首脳会談後の共同声明にも、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」 と盛り込まれ、注目されました。

 台湾有事は、どのような条件が整ったときに起こると考えられますか。米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官が3月、上院軍事委員会の公聴会で「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」 と発言しています。

「冷戦2.0」は誤り、今は「超限戦」のまっただ中にある

渡部悦和・元陸将(以下、渡部):台湾有事の定義によりますが、私は既に始まっていると捉えています。台湾有事は、いわゆるハイブリッド戦になるとみられます。ハイブリッド戦は、軍事と非軍事の境界を意図的にあいまいにした現状変更の手法です。一挙に中国と台湾の正規軍が正面からぶつかり合うのではなく、軍事と非軍事が混合した複雑な形を取って事態がエスカレーションすると思います。

<span class="fontBold">渡部悦和(わたなべ・よしかず)</span><br />元陸将。陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、東部方面総監を歴任して、2013年に退官。元ハーバード大学上席特別研究員。(写真:加藤 康、以下同)
渡部悦和(わたなべ・よしかず)
元陸将。陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、東部方面総監を歴任して、2013年に退官。元ハーバード大学上席特別研究員。(写真:加藤 康、以下同)

 軍事の面だけみても、戦う空間が従来の陸・海・空といったドメインにとどまることはありません。サイバー空間や宇宙、電磁波戦などに広がります。さらに、これらは平時でも行われる。非軍事の舞台としては、貿易や金融、制裁、法律など様々な分野が挙げられます。

 非軍事の分野で、中国がいま最も力を入れているのは情報戦です。これは監視・偵察などの情報活動はもちろん、政治工作、影響工作、認知戦、プロパガンダ戦を含む非常に広い概念です。最近とみに注目されているのが影響工作と認知戦。影響工作の典型例は、2016年の米大統領選でヒラリー・クリントン候補を落とすべく、ロシアがさまざま偽情報を流したケースです。認知戦は人間の脳などの認知領域に働きかけて、その言動をコントロールする戦い。いわゆるプロパガンダ戦は、中国が既に進めている「大外宣」が知られています。

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