実利の追求を離れ、ルールメーカーに脱皮できるか

 ただし、この再チャレンジは課題を抱えています。李政権と同じ事をしようとしても失敗するのは明らかです。理由は2つあります。1つは、韓国を取り巻く国際情勢がこの10年で大きく変わったこと。北朝鮮の核・ミサイルの脅威は一層大きくなりました。中国の存在感も非常に大きくなった。ロシアのウクライナ侵略も起きています。こうした変化を踏まえた行動を取る必要があります。

 第2に、李政権は北朝鮮や中国と良好な関係を築けたとはいえません。10年には、韓国の哨戒艦「天安」が北朝鮮の潜水艇に沈められる事件が発生しました。南北軍事境界線に近い延坪島(ヨンピョンド)を北朝鮮が砲撃したこともありました。

 中国との関係は、「全面的協力パートナー関係」を08年、「戦略的協力パートナー関係」に格上げしたものの、その後、両国関係は悪化の方向に向かいました。ここから得た教訓を尹政権は生かさなければなりません。

李政権の教訓を生かし、国際情勢の変化に対応する――。この視点から見たとき、尹政権は具体的にはどのような行動を取るべきなのでしょうか。

西野:これまでのように自国の実利を追求するだけでなく、国際社会が尊重すべき価値や規範、そしてルールを守り、さらにはつくっていくことに対してより自覚的になる必要があります。

 李明博大統領は自らを「経済大統領」と位置づけ、韓国経済を再生すべくFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の締結に力を入れました。対外経済への関与を一層増やすことで、国を富ませ、恩恵を受けてきたのです。

 しかし、これからは実利を追うだけでなく、自由民主主義や市場経済といった価値やルールに基づく秩序を守り、構築する側の立場で行動することが求められます。韓国は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CP TPP)」への加盟を目指しています。貿易拡大の機会を提供する場に参加して実利を求めるだけでなく、より良い貿易ルールを構築する協力者として参加することを考えるべきです。

 日本では安倍晋三首相(当時)が「自由で開かれたインド太平洋」という概念を打ち立て、これを守り、発展させていくとの目標を掲げました。米政権はこれを評価し、自国の取り組みに取り入れています。尹政権もこうした取り組みに力を入れるべきです。

価値や秩序を構築する側に立つ、まさに「リーダー」として振る舞うべきだ、ということですね。韓国がそうした存在に成長することは日本にとってはどのような意味を持ちますか。日韓が張り合う関係になることが懸念されます。

西野:もちろん日本にとっても良いことだと評価します。現在の国際社会は、ウクライナ侵略が起こるなど、ルールに基づく秩序が揺らぐ状況に直面しています。日本と韓国は、北にロシア、西に中国と、力で現状を変更しようとする国に囲まれてもいる。

 こうした状況に対処するために、日韓が協力を強めるのは望ましいことです。日本だけで立ち向かうことは難しいですから。この地域で日本が協力すべきパートナーは、民主主義体制で世界10位の経済大国でもある隣国・韓国です。

 確かに日韓は元慰安婦問題や元徴用工問題などの懸案を抱えています。それゆえ、この10年間、十分な協力関係を築くことができずにきました。しかし、これは異常な状態であると認識すべきです。

「異常」な期間が長すぎて、関係が悪いのが「当たり前」になった感があります。それではいけないですね。

西野:確かに「ニューノーマル」になった感は否めません。しかし、このままではいけません。

 岸田文雄政権はこうした状況を理解し、関係改善に動こうとしているとみています。尹大統領が就任前に政策協議代表団を訪日させた際、岸田首相の他、外相、防衛相、経産相が面談しました。前首相や元首相も代表団に会ったのです。単に韓国で新政権が誕生するだけでなく、尹政権が国際社会でより積極的な役割を果たそうとしているからこそ、岸田政権はこうした対応を取ったのだと思います。

尹政権には大きな期待が持てそうですね。

西野:その点については、過度な期待を持つのは禁物です。期待はします。しかし、過去の経緯を踏まえると、2国間に横たわる懸案は簡単には解決できそうにありません。そのため慎重にならざるを得ません。

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