
中国と南太平洋のソロモン諸島が安全保障協定を結んだ。この背景にはオーストラリアの失政がある。ソロモン諸島をはじめとする太平洋島しょ国を味方に付けるどころか、反発を招いている。かつて米国に対し「米中で太平洋を二分」と提案した中国は、「東西」でなく「南北」での分割を意図している可能性もある。黒崎岳大・東海大学准教授に聞いた。
(聞き手:森 永輔)
(前編「日米戦争を決したガダルカナル島 中国が安全保障協定を結んだ理由」はこちら)
ソロモン諸島と中国の関係強化は、オーストラリアに対するソガバレ首相の反発が大きい印象を受けます。もちろん、中国外交部のソロモン諸島担当者が力を発揮している面はありますが。この認識が正しければ、今回の中国・ソロモン諸島の安全保障協定は、豪州によるオウンゴールということになりますね。
黒崎岳大・東海大学准教授(以下、黒崎):その認識で正しいと思います。
ただし、豪州も太平洋島しょ国への支援拡大を含め関係強化に努めるべく2017年以降「パシフィクステップアップ」という外交政策方針を打ち出してはいます。

太平洋島しょ国の反発を招く豪州の失政
豪州の失政と言える出来事を紹介しましょう。ミクロネシアに位置するパラオなど5カ国が20年から、太平洋諸島フォーラム(PIF)からの脱退を進めているのです。PIFは豪州や太平洋島しょ国で構成する地域協力機構。このPIFの事務局長の選出が事の発端でした。
この事務局長はミクロネシア(マーシャル諸島など)、メラネシア(パプアニューギニアやソロモン諸島など)、ポリネシア(サモアやクック諸島など)という3地域から輪番制で出すことが不文律になっていました。21年の選出は、ミクロネシアから事務局長を出す順番。ミクロネシア5カ国は、マーシャル諸島の駐米大使を務めたジェラルド・ザキオス氏を推すことで一致していました。
ところがこの選出に、クック諸島のヘンリー・プナ氏が名乗りを上げたのです。同氏はクック諸島の前首相。この背景について、中国が動いたとの見方があります。マーシャル諸島は台湾を承認しています。そしてザキオス氏は元駐米大使で米国と深い関係にある。中国はこれを嫌ったといわれています。
誰を事務局長にするか話し合いはまとまらず、21年2月に投票をすることになりました。勝利したのはクック諸島のプナ氏でした。PIF加盟18カ国のうち、1カ国が棄権して17カ国が投票し、プナ氏が9票を獲得したのです。
このとき騒動を大きくしたのが、豪州とニュージーランドの行動でした。両国はクック諸島のプナ氏に投票したらしいのです。この2カ国がマーシャル諸島のザキオス氏に投票していれば10対7で同氏が勝利する穏当な結果になっていたのですが、そうはなりませんでした。パラオとマーシャル諸島は激怒。ミクロネシア5カ国はそろって脱退を表明するに至ったのです。
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