中国からのカネで豪州を制す

このソガバレ氏が次の選挙で勝利し、4度目の首相に就任。そして今回、中国と安全保障協定を結んだわけですね。それはなぜですか。

黒崎:それは(2)ソロモン諸島と米・豪・ニュージーランドとの関係が背景にあります。

 ソガバレ氏は選挙に強く、首相に就任するのですが、そのたび、内閣不信任案を可決され引きずり下ろされてきました。ソロモン諸島は議院内閣制を取っています。野党が内閣不信任案を可決するには、与党内で同氏から造反する勢力を取り込む必要があります。この工作に豪州政府が加担してきたといわれています。

 ソガバレ氏はこれまで豪州を嫌ってきました。同国の“上から目線”を嫌ってのことです。ソロモン諸島は、英国のエリザベス女王を元首としています。しかし、この地域では豪州が英国の“代官”として重きをなしてきました。ソガバレ氏はその構図が気に入らないのだと思います。他方、豪州も、ソガバレ氏の独善的な態度に対し、時に業を煮やすことがあり、内政に介入したのだとみられます。

 反ソガバレ派の後ろ盾として豪州がいる――。ソガバレ氏は「ならば、自分にも後ろ盾をつくろう」と考えたのでしょう。そこで白羽の矢を立てたのが中国でした。ソガバレ氏は06年にフィジーで起きたクーデターから学びを得て、中国を選んだと考えられます。

フィジーからの学びですか。

黒崎:そうです。この年、フィジーの軍司令官だったジョサイア・ヴォレンゲ・バイニマラマ氏がクーデターを起こし、政権を奪取しました。当時のフィジー政権は汚職にまみれているというのが理由でした。バイニマラマ氏は、対立していたフィジー系とインド系の勢力を束ねて首相に就任しました。

 このとき、豪州とニュージーランドは「クーデターである」との理由でバイニマラマ政権に経済制裁を科して、干上がらせようと試みました。国際機関からの締め出しも図った。しかし、フィジーが音を上げることはありませんでした。中国が経済支援したからです。一説によると、07年の支援額は前年の11倍に及んだといいます。

 バイニマラマ政権は中国の支援でこの窮地をしのいだ後、13年に憲法を改正して14年に民主的な選挙を実施。バイニマラマ氏はこれに勝利して、現在は民主的な手続きを経た首相として政権の座にあります。中国のおかげで民主化を実現したという皮肉な事例です。

 ソロモン諸島のソガバレ氏はこの出来事を教訓としているのでしょう。中国を後ろ盾とすれば、豪州やニュージーランドから介入があっても政権を維持することができると。

 実際に21年、中国の後ろ盾が力を発揮しました。野党が再び不信任案を提出したのですが、ソガバレ派はこれを否決したのです。これには中国からもたらされる資金が寄与したとみられます。中国から“地方開発基金”として寄せられる資金をソガバレ氏が一括して受け取り、議員に配分する仕組みができあがっているのです。

 実は地方選挙区開発基金は、台湾がソロモン諸島の議員に配布したのが始まりでした。19年まで台湾承認国であったソロモン諸島の議会において親台湾派を固めるための措置です。ただし、台湾はこの資金を議員たちに個別に配布していました。額は1人当たり1億円程度。

 ソロモン諸島が同年に台湾と断交して中国と国交を結んだのを機に、ソガバレ氏は中国に対し、地方選挙区開発基金を同氏が一括して管理できるよう要求し実現したのでした。

議員は、ソガバレ氏に逆らえば、この資金が得られなくなる環境に置かれたわけですね。

「北京政府に認められたい」

カリスマ政治家のソガバレ首相は、豪州やニュージーランドからの介入があっても自らの政権の安定を保つため、中国を後ろ盾に選んだ。その具体策として、台湾との断交と安全保障協定があるわけですね。安全保障協定をめぐる中国側の意図はどこにあるのでしょうか。

黒崎:それが(3)中国外交部における官僚機構の動きです。

 台湾との断交と中国との国交樹立は、太平洋諸島地域、とりわけ地域の中心的な役割を果たしているフィジーやパプアニューギニアなどに駐在している大使をはじめとした中国の外務官僚のお手柄です。

 しかし、これに伴うソガバレ政権からの支援要求にどこまで応じられるか不安があったのではないでしょうか。北京から見れば、ソロモン諸島は南太平洋の小国にすぎません。ソロモン諸島を支援するにしても、財布の大きさにはおのずと限度があるでしょう。

 安全保障協定を結ぶことで、北京が握る財布のひもを緩めさせる説得材料にしようとしたと考えられます。同協定の締結を懸念した米政府は、国家安全保障会議(NSC)でインド太平洋調整官を務めるカート・キャンベル氏をソロモン諸島に派遣しました。中国大使館は「米国が大騒ぎするほどインパクトのある協定だ」と北京に売り込むことができるわけです。北京も米国の動きを見て、にんまりしていることでしょう。

次ページ ソロモン諸島には軍隊がない