ガダルカナル戦は日米戦争の局面を変えた(写真:AP/アフロ)
ガダルカナル戦は日米戦争の局面を変えた(写真:AP/アフロ)

中国と南太平洋の島しょ国、ソロモン諸島が安全保障協定を結んだ。ソロモン諸島を構成する島の1つにはガダルカナル島がある。日米戦争において、米国とオーストラリアを結ぶ海上補給路を扼(やく)す重要ポイントだった。同島をめぐる日米の戦いは、日米戦争全体の局面を日本の敗戦へと導く転機となった。そのソロモン諸島に中国が手を伸ばした狙いは何か。日本、米国、豪州に与える影響はいかに。黒崎岳大・東海大学准教授に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

中国とソロモン諸島が4月、安全保障協定(Security Pact)を結んだと相次いで発表しました。この地域における米国の覇権に対する中国の挑戦が一歩進んだとして注目を集めています。

 「安全保障」をめぐる協定であることが気になります。第2次世界大戦中に日本軍は、ソロモン諸島を構成するガダルカナル島に飛行場を築きました。米国とオーストラリアを結ぶ海上補給路を遮断することが目的でした。

 同じく同島の重要性を理解していた米国とこの飛行場をめぐって激しい戦いを展開。日本軍の補給は十分でなく餓死者が絶えないことから、ガダルカナル島は「餓(ガ)島」と呼ばれることに。その末に敗退。日本兵の死者は2万人を超えました。この戦いを機に日本の敗色は濃くなっていったとされます。

 中国も当時の日本軍と同じ意図を持っているのではないでしょうか。中国は西太平洋を勢力圏に収めようとの意思をのぞかせています。米太平洋軍のティモシー・キーティング司令官(当時)は2008年、中国海軍幹部から「米国がハワイ以東を、中国が以西を管理する」太平洋2分案を提示されたと米議会で明らかにしました。ソロモン諸島は、そうした狙いを持つ中国にとって重要な軍事的意義を持ちます。

 そのソロモン諸島と安全保障協定を結びました。黒崎さんはこの協定の意義をどう見ますか。

3度の内閣不信任案を経て、4度目の首相に

黒崎岳大・東海大学准教授(以下、黒崎):各国で報道されるなど地域の国際秩序を考える意味では極めてインパクトのある出来事であるとは思います。ただ私は、森さんが懸念されるほどの意図は今のところ中国にはないと見ています。

黒崎岳大(くろさき・たけひろ)氏
黒崎岳大(くろさき・たけひろ)氏
東海大学准教授。専門は太平洋諸島の国際関係論、開発経済学、文化人類学。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。早稲田大学文学部助手、在マーシャル日本国大使館専門調査員、外務省アジア大洋州局事務官などを歴任。2022年から現職。著書に『マーシャル諸島の政治史 米軍基地・ビキニ環礁核実験・自由連合協定』『太平洋島嶼地域における国際秩序の変容と再構築』など。(写真=菊池 くらげ)

 それよりも、(1)ソロモン諸島内の政争(2)ソロモン諸島と米・豪・ニュージーランドとの関係、そして(3)中国外交部における官僚機構の動き――が今回の協定を紡ぎ出した中心的なドライバーだと考えます。これについて順番にお話ししましょう。

 まず、ソロモン諸島内の政争について。この国の政局はソガバレ首相を中心に回ってきました。同氏は言いたいことをはっきり口にする直言居士。親分肌でカリスマ性があり、国民の間で高い人気があります。よって選挙に強く、現在は4度目の首相職を務めています。

4度目というのはすごいですね。

黒崎:ええ。ただし、非常に個性的な政治家であるがゆえに敵も多く、政局は常にソガバレ派対反ソガバレ派の構図を取ります。政策上の違いではなく、ソガバレ氏に付くか、付かないかが、軸になるのです。

 過去3度の首相職は、野党が内閣不信任案を可決させ、その地位を追われました。最もドラマチックだったのは、3度目の首相に就いた後の2014年の政局です。議会選で勝利したソガバレ派は連立政権を樹立し、同氏が首相に就きました。ところが、野党が与党内の反ソガバレ勢力を取り込み、不信任案を可決したのです。ソガバレ氏は首相職を辞さねばなりません。しかし、次の首相指名投票において、同氏は野党の一部を抱き込み、ソガバレ派による政権を継続させました。自身は首相から退いたものの副首相の座に納まりました。

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