原発は、安定性と経済合理性において優れています。二酸化炭素(CO2)も排出しません。安全性さえ高めることができれば、放射性物質の漏洩の可能性など外部経済も今以上に抑えることができるでしょう。

 選択肢として残すならば、一刻も早く取り組むことが求められます。福島第1原発の事故以降、負の履歴効果が積み重なっているからです。就職氷河期が起こると、この間に職を得られず、職業訓練を積むことができない人が数多く生まれます。これが、その国の潜在成長率を落とすのが負の履歴効果です。

 現在、これの「原発版」が進行しています。10年にわたって稼働を停止しているので、運用する人材を確保するのが困難。安全性を高めようにもそのための技術者が育ちがたい状況が続いてきました。

原発を選択肢から外せば経常赤字が近づく

原発については「事故が起きたからやめる」との考えが主流となり、「事故を糧により安全なものにする」という意見は力を得ることがありませんでした。

 仮に原発が選択肢から外れた場合、気に懸かるのは経常収支の展望です。2017年をピークに黒字額が右肩下がりにあります。この傾向は、一時的な要因のせいと見るべきでしょうか。新型コロナ危機に伴うインバウンド需要の減少や、ロシアによるウクライナ侵攻にがもたらすエネルギー資源価格の高騰など、日本の経常収支を悪化させる出来事が最近続いています。それとも、構造的な現象と見るべきでしょうか。

小林:私は両方だと思います。この数年は、いま指摘されたインバウンド需要の減少やエネルギー資源価格の高騰が効いている。加えて、半導体不足などを原因とする自動車生産の伸び悩みも経常収支を悪化させています。

 そして長期的に見ると少子高齢化が黒字縮小の大きな要因です。働き手が減る一方、食べる口の数は変わらないのですから、消費超過による貯蓄の減少を導く。経常黒字の縮小は「約束された未来」だと言えます。

 実際、経常収支を構成する要素の1つである貿易収支は、1990年代から縮小傾向にありました。国内で生産し、輸出で稼ぐモデルはもはや、日本経済の根幹をなすものではないのです。

 中国が2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟し、安い労働力を世界市場に提供するようになったので、日本の製造業で空洞化が進んだ――との見方があります。確かにそうした面はあるでしょう。問題なのは、今後、日中間で賃金が同等になっても、日本に製造拠点が戻ることは考えづらいことです。働き手がいないのですから。現在は有効求人倍率が常に1を超える状況が続いています。

 1990年代半ばから2000年代初頭の時期に、黒田東彦・日本銀行総裁が登場してくれていたら、と考えてしまいます。このころ有効求人倍率は1を大きく下回り*、1999年には0.48を記録しました。2人に1人が非正規社員の職にもありつけない状態だったのです。このときに為替を円安に誘導していれば雇用を維持でき、負の履歴効果を避けることができたと思います。

*:求人が求職を下回る状態

 少子高齢化が改善しなければ、経常収支の黒字が縮小する傾向は今後20~30年は続くでしょう。国際収支の発展段階仮説にのっとれば、今日の日本は「成熟した債権国」(貿易収支は赤字だが、経常収支は黒字)の段階。そして、いずれ「債権取り崩し国」(貿易収支も経常収支も赤字)になってしまうのが見えています。

 そうなれば、国債の発行を国内で賄うことができなくなります。「2050年ごろにそうなってしまうかもしれない」との想定の下で、財政再建への道筋が議論されてきました。ですが、新型コロナウイルス禍などのため、その時期の到来が早まる可能性が高まっています。

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