ロシア軍によって破壊されたとされるウクライナ南東部マリウポリの劇場。数百人の住民が避難していた(写真:ロイター/アフロ)
ロシア軍によって破壊されたとされるウクライナ南東部マリウポリの劇場。数百人の住民が避難していた(写真:ロイター/アフロ)

学校、劇場、駅――。ウクライナにおいて、市民が集まる場所がロシア軍の攻撃対象となった。「戦争犯罪」として糾弾しようとの声が高まっている。戦争犯罪とは何なのか。日本の自衛隊が戦争犯罪をした場合、それはどのように裁かれるか。元自衛官で、海上自衛隊幹部学校などで国際法を教えた中村進氏に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

ロシアがウクライナに侵攻してからおよそ7週間がたちました。当初は、ロシアの意図と軍事作戦の進行に注意が向けられていましたが、今はロシア軍によるウクライナ市民への攻撃に人々の耳目が集まっています。ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊から撤退した後、後ろ手に縛られたままの遺体が発見されるなど残虐な行為が確認されたからです。

 学校や劇場、駅など市民が集まる場所への攻撃も報道されています。こうした行為を「戦争犯罪」として指弾する記述も頻繁に目にするようになりました。

 「戦争犯罪」とは具体的にどのような行為で、どの国際法によって禁じられているのでしょうか。

中村進・慶応義塾大学SFC研究所上席所員(以下、中村):戦争犯罪は主に国際人道法に違反する行為を指します。同法の代表としてジュネーブ条約があります。

中村 進(なかむら・すすむ)氏
中村 進(なかむら・すすむ)氏
慶応義塾大学SFC研究所上席所員、笹川平和財団客員研究員。横浜国立大学国際社会科学研究科博士課程単位修得退学(博士=学術)。1974年に海上自衛隊入隊。航空部隊勤務などを経て、92年から海上自衛隊幹部学校で勤務。研究室長、海上幕僚監部法務室長兼務などを経て2008年3月退官。その後、17年3月まで再任用。17年10月より笹川平和財団客員研究員。21年から慶応義塾大学SFC研究所上席所員兼務。著作に『アメリカ太平洋軍の研究』(共著)など(写真:菊池くらげ)

 同条約は第1~4の諸条約と2つの追加議定書で構成されます。今回のロシアによるウクライナ侵攻で注目されるウクライナ市民への残虐な行為は、主にジュネーブ諸条約追加第1議定書が定める禁止規定の対象です。

 第1~4条約は、第2次世界大戦への反省を踏まえて1949年に結ばれたもので、国家間の大規模な戦争を想定しています。第1~3条約は軍人・戦闘員など――傷病者や衛生要員、宗教要員、捕虜、難船者、衛生施設、医療輸送手段、病院船――を保護するための約束事。第4条約は紛争当事国や占領国の権力下にある外国人の保護を定める条約です。

 これに対して第1議定書は大戦後に多発した民族紛争やゲリラ戦も対象にすべく77年に作成されました。具体的にはゲリラ戦を戦う不正兵士にも戦闘員の資格を与え保護の対象としています。そして、この延長線上にあるテーマとして、紛争地で暮らす市民を保護する規定も盛り込みました。ベトナム戦争においてベトコンが市民の間に紛れてゲリラ戦を展開したため、市民が受ける被害が拡大したからです。

*:ベトナム戦争当時、南ベトナムで活動した南ベトナム解放民族戦線のこと。北ベトナムの支援の下で、南ベトナム軍や米軍と戦った

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