インバウンド需要をはじめとするサービス消費・輸出が戻ってくれば……(写真:長田洋平/アフロ)
インバウンド需要をはじめとするサービス消費・輸出が戻ってくれば……(写真:長田洋平/アフロ)

ロシアによるウクライナ侵攻が収束せず、資源高を起点とする景気失速が懸念される。円安も急速に進行し、この懸念を拡大させている。だが、大和総研の神田慶司・日本経済調査課長は2%超の経済成長を見込む。新型コロナ危機からの反動があった2021年を上回る値だ。なぜ、それだけの成長が可能なのか。

(聞き手:森 永輔)

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神田慶司・大和総研経済調査部日本経済調査課長(以下、神田):ここまで、2つの下振れ要因――(1)ミクロの視点から見たサプライチェーンのボトルネック、(2)資源高を起点とするインフレの加速――についてお話ししました。これらに加えて、実はもっと大きな変動要因があります。新型コロナの感染状況です。ウクライナ問題が膠着して資源高が続いても、感染が収まり、サービス需要が拡大すれば大きなプラス効果をもたらすからです。

新型コロナ不況からの回復効果は下振れ余地を上回る

 日本の個人消費を「財」と「サービス」に分けて考えると、財は2020年10~12月期に新型コロナ感染拡大前のレベルに戻りました。半導体不足などで減産を強いられている自動車の生産体制が正常化すれば新車販売台数が急増し、感染拡大前を優に超えるでしょう。

神田慶司(かんだ・けいじ)
神田慶司(かんだ・けいじ)
大和総研 経済調査部 日本経済調査課長。専門は日本経済、財政・社会保障。1981年生まれ。2004年に一橋大学経済学部を卒業して大和総研に入社。2008年には内閣府 政策統括官室(経済財政分析担当)へ出向。2019年から現職(写真:菊池くらげ)

 これに対して、旅行や外食などのサービスの戻りは遅れています。これが戻ってくれば、日本経済は相当に回復します。さらに、サービス輸出に含まれるインバウンド消費も大きな上振れ要因です。現在はほぼゼロですから。これらのサービス消費とサービス輸出を合わせれば年率換算額で10兆円を超える上振れ余地があります。

新型コロナ感染の収束がもたらす上振れ余地は10兆円超。これは大きいですね。下振れ要因は、その規模を試算しているのですか。

神田:ウクライナ危機による下振れ要因が実現するのが、冒頭で触れた悲観シナリオになります。ベースシナリオとの差は3つ――(1)資源価格、(2)対ロシア貿易の推移、(3)株価です。ベースシナリオは(1)原油価格1バレル100円、(2)対ロ貿易は縮小、(3)株価は2021年12月比で+5%と設定しました。悲観シナリオはそれぞれ(1)200ドル、(2)停止、(3)マイナス30%です。

 成長率の予測値はベースシナリオが2.7%、悲観シナリオが2.1%なので、両者の差額は約3兆円(2021年の実質GDP見込み537兆円×0.6%(2.7%-2.1%))です。原油価格が200ドルまで高騰しても、新型コロナ禍が収束し、サービス消費・輸出が戻ってくれば容易に吸収できる規模と言えるでしょう。

 ここまでお話ししたように、ウクライナ危機が日本経済に与える直接的な負の影響はそれほど大きくありません。貿易でも投資でも、両国の関係は薄いからです。これに加えて、2月24日から1カ月ほどがたち、現実は悲観一色でないことも見えてきました。ロシアが債務の利払いができなくなりデフォルト(債務不履行)する懸念が当初は高まりましたが、今のところ支払いを続けています。エネルギー資源の取引は継続しており、何でもかんでもデカップリングとなるわけではないことも分かりました。

 為替は円安を強めています。この点も、今が真の有事で企業や投資家がリスクオフに走っているわけではないことを示しています。ウクライナ危機がもたらす負の影響をすぐに解決することはできませんが、時間をかければ解決できる。エネルギー資源の供給制約問題も同様だと考えます。

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