例えばガソリンが1リットル当たり10円値上がりしたとします。50リットル給油すれば500円多く支払わなければなりません。負担増は避けられません。とはいえ、居酒屋で注文する生ビール1杯程度の負担。コロナ禍で外食の機会を減らしてきた家計にとって、払えない金額ではありません。

スーパーで購入する食材の価格が10円とか100円とか上がっても、外食にかかるコストに比べればわずかなものです。実際にここ数年、消費の「プチ贅沢」志向が指摘されています。在宅時間が増えたのを背景に、家で飲むコーヒーをインスタントからドリップ式に代えるといった動きを指します。パンの購入単価も上がっています。
過剰貯蓄が60兆円に達した背景として、消費の抑制に加えて、政府が取り組む新型コロナ対策が大きな役割を果たしました。特別定額給付金として国民1人当たり10万円を給付。21年秋には子育て世代や住民税非課税世帯などを対象とした新たな給付金を設けました。こうした措置により、所得の低い層であっても、ある程度の購買力を維持しているのです。
新型コロナ対策が、ウクライナ危機がもたらす経済失速への対策として効果を発揮する可能性が高いわけですね。特別定額給付金は、想定と異なり、消費には向かわず貯蓄に回ってしまったため、批判されることがありました。それが今、ウクライナ危機がもたらす資源高への対策として力を発揮する。塞翁が馬とはこのことですね。
神田氏:そういう側面は確かにあると思います。
なので、今、追加の大規模な景気対策は必要ないと考えます。本当に支援が必要な人にしぼって対策を行うべきです。例えば、サービス業など労働需要が縮小している産業で、非正規で働いていたものの職を失い、今後の再就職が難しい状況にある人などが給付対象として考えられます。
日ロの貿易・投資はせいぜい全体の2%
ウクライナ危機がもたらす負の影響が、人々が直感的に思うほど大きくないもう1つの理由は、ロシア経済と日本経済とのつながりが非常に薄いことにあります。
対ロシア貿易が日本の貿易全体に占める割合は、輸出で1.0%、輸入で1.8%しかありません。対ロ直接投資も全残高の0.1%にとどまります。金融に目を向けても、ロシア向け債権は対外与信残高の0.2%に過ぎません。
これらが縮小したところで、日本経済がひっくり返ることはありません。
ただし、以上はマクロの視点から見た現状です。ミクロの視点に立てば、さまざまな商品のサプライチェーンにおいてボトルネックとなる部材をロシアから購入しています。ここは注意して、対策を打つ必要があります。
具体的にはどんな産品に注意が必要でしょうか。
神田氏:1つはパラジウムです。
ガソリン車が排出する有害なガスを浄化する触媒の材料として重要です。
神田氏:パラジウムを含む白金の輸入の12.3%をロシアに依存しています。また、合金鉄の輸入の12.6%もロシアからです。鉄を利用する製品は非常に多様なので、この輸入が滞る影響は小さくありません。
こうした個別の産品がサプライチェーンに及ぼす影響は、冒頭に示した予測値に反映できていないので、その分は下振れするリスクがあります。
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