
朝鮮半島情勢に詳しい武貞秀士・拓殖大学客員教授は、韓国の最近の動向に目を光らせる。気になる動きが相次いでいるからだ。バイデン米大統領が音頭を取った「QUAD(日米豪印)」の首脳会議に招待されなくても平気な態度だった。米韓外務・防衛担当閣僚協議(2+2)の後に両国が出した共同声明に「中国」の文字は入らなかった。バイデン大統領が日本やオーストラリアを巻き込んで「バイデン構想」を展開したのと並行して、習近平国家主席は独自のイニシアチブをロシアなどとともに進めていた。どちらにも名前が挙がるのが韓国だ。
(聞き手:森 永輔)
(「北朝鮮がミサイル再開、バイデン・金正恩会談もあり得る)」も併せてお読みください。
ジョー・バイデン米大統領がインド太平洋地域を舞台に展開した一連の外交が一段落しました。3月12日には、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国(QUAD)による初の首脳会議を開催。3月16日には日米外務・防衛担当閣僚協議(2+2)、3月18日には米韓2+2と2国間協議を相次いで展開。そして3月18日 、米アラスカ州アンカレジで米中外相会談を開きました。 一連の流れの中で注目されるのが、米国の対韓政策です。武貞さんはどう分析しますか。
武貞:韓国は中国の側についています。これにはいくつも傍証があります。文在寅(ムン・ジェイン)政権発足直後の2017年10月、韓国は中国に対して「3つの不」を約束しました。米韓同盟を深化させない、中国が安保上、懸念することをしない、ことなどを約束した。米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備を巡って中韓摩擦の解消を図りました。

拓殖大学大学院客員教授 専門は朝鮮半島の軍事・国際関係論。慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。韓国延世大学韓国語学堂卒業。防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。2011年、統括研究官を最後に防衛省退職。韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書に『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所)、『防衛庁教官の北朝鮮深層分析』(KKベストセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(PHP研究所)など。
それに韓国は、北朝鮮に対する支援物資を中国経由で送っています。韓国、中国、北朝鮮が黙っていれば他の国には分からないことですが。
文在寅大統領は1月26日、習近平(シー・ジンピン)国家主席と電話で会談しました。バイデン氏が大統領に就任した6日後に、バイデン大統領との電話会談に先立って習近平国家主席と話をしたわけです。その議題には、習近平国家主席の訪韓も含まれていました。「習近平国家主席が今年、国賓として訪韓すれば、両国の結束をさらに示すことができる」という話です。
バイデン新大統領より前に習近平氏と会談した文在寅大統領
これにあきれたバイデン政権は、バイデン大統領と文在寅大統領との電話会談を意図的に遅らせました。菅義偉首相とバイデン大統領の電話会談が1月28日だったのに対して、文在寅大統領とバイデン大統領の電話会談は2月4日。7日の差を付けました。文在寅大統領は完全にメンツを潰されるかたちになりました。
「バイデン・イニシアチブ(バイデン構想)」に基づく一連のイベントにおける韓国の態度も、今の韓国の立場を表しています。QUAD首脳会議に招かれなくても、韓国は平気な態度でした。中国から「入るな」とくぎを刺されていたからです。むしろ誘われていたら韓国は困ったのではないでしょうか。米国を取るのか、中国を取るのか、踏み絵を踏まされるわけですから。
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