ロシアのみやげ物店で販売されているお面。右がプーチン大統領、左がベラルーシのルカシェンコ大統領(写真:AP/アフロ)
ロシアのみやげ物店で販売されているお面。右がプーチン大統領、左がベラルーシのルカシェンコ大統領(写真:AP/アフロ)

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が3月25日、戦術核をベラルーシに配備することで同国と合意したと明らかにした。その意図は何か。北大西洋条約機構(NATO)はどのように対応するのか。核抑止戦略に詳しい、高橋杉雄・防衛研究所防衛政策研究室長に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

ロシアのプーチン大統領が3月25日、戦術核をベラルーシに配備することで同国と合意したと明らかにしました。読売新聞は「ロシアはベラルーシに核搭載が可能な短距離ミサイル『イスカンデル』と軍用機10機を配備済みで、4月3日から訓練を開始するという」と報じています。とすると、ロシアは短距離弾道ミサイル「9M723」か、もしくは、航空機に搭載する短距離弾道ミサイル「キンジャール」に核弾頭を搭載するとみられます。プーチン氏が核の威嚇を一段強めた印象です。高橋さんはこの意義をどう捉えますか。

高橋杉雄・防衛省防衛研究所防衛政策研究室長(以下、高橋氏):軍事的に見て大きな意味はありません。政治的な意味の方が大きいと思います。既に事実上の属国と言えるベラルーシのさらなる属国化を進める。もしくは、ロシアが核保有国であることをNATO加盟国に改めて認識させ、ウクライナへの武器支援をためらわせる。

高橋杉雄(たかはし・すぎお)
高橋杉雄(たかはし・すぎお)
防衛研究所政策研究部防衛政策研究室長。専門は国際安全保障論、現代軍事戦略論、日米関係論。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。同大学院同研究科で政治学修士、ジョージワシントン大学コロンビアンスクールで政治学修士を取得。1997年、防衛研究所に入所。(写真:加藤 康、以下同)

軍事的に大きな意味はないのですか。

高橋氏:ええ。ベラルーシに戦術核を配備しても、ロシアが持つ核攻撃力が高まるわけではありません。

9M723は、メディアが「イスカンデル」と呼ぶもの。イスカンデルは地上に配置する発射装置で、これに搭載できる弾道ミサイルが9M723。発射直後のブーストフェーズや着弾前のターミナルフェーズで変則軌道を描く能力を持ちます。キンジャールは、9M723を航空機から発射できるようにしたもの。Su-34やMig-31といった戦闘機や、Tu-22M3爆撃機に搭載することできます。

高橋氏:このうち9M723は射程が約500キロメートル。したがって、ベラルーシに配備しても、新たにベルリン(ドイツの首都)に届くようになるわけではありません。

ウクライナの首都キーウ(キエフ)にもぎりぎり届くようになるかならないかの距離ですね。

高橋氏:9M723をベラルーシに配備すればポーランドとバルト3国を射程に収めることはできます。けれども、それはカリーニングラードに配備している現行の9M723で既に可能です。ロシアはカリーニングラードにも核弾頭を配備している推測されています。

*:バルト海に面したロシアの飛び地で、軍事拠点を配置している。他の3方をリトアニアとポーランドに囲まれている

キンジャールはMig-31に搭載する場合で射程が約2000キロとされています。これなら、ベラルーシからベルリンまで届きます。

高橋氏:そうですね。しかし、キンジャールならロシア本土からベルリンにも届くので、ベラルーシに配備する必要がありません。

 このように考えてくると、ロシアの狙いは軍事的なものではなく政治的なものであると分かります。

 ちなみに9M723の射程が500キロにとどまるのはINF(中距離核戦力)廃棄条約があったからです。

ロシアはINF廃棄条約を結び、核弾頭の搭載が可能な射程500~5500キロ(中距離)の陸上配備型弾道ミサイルおよび同巡航ミサイルを開発、発射実験、生産、保有しないと、米国との間で約束しました。

高橋氏:同条約は、米トランプ政権が2018年10月に破棄する意向を表明し、19年8月に失効しました。しかし、まだ4年弱しかたっておらず、ロシアも米国も新たな中距離ミサイルを開発できていません。

ベラルーシの属国化をさらに進める

ロシアが戦術核をベラルーシに配備すると、属国の度合いを高めることができるのですか。

高橋氏:そうなります。ベラルーシは22年2月に憲法を改正し、「核兵器を持たず中立を保つ」との条項を削除しました。ルカシェンコ大統領は中立であることをやめ、ロシアの核の傘に入る方針を公にしたわけです。

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