北朝鮮が3月25日、「新型戦術誘導弾」を発射した。北朝鮮版イスカンデル改良版とみられる(写真:KNS/KCNA/AFP/アフロ)

北朝鮮が3月25日朝、およそ1年の沈黙を破って弾道ミサイル2発を発射した。このタイミングを選んだ理由に、北朝鮮を取り巻く中国、ロシア、韓国の動向がある。発射したのはなぜ「北朝鮮版イスカンデル」だったのか。一連の疑問を、朝鮮半島研究の重鎮・武貞秀士氏にぶつける。同氏は「非核化を最終目標にするのを条件に外交の用意もある」とのバイデン発言に警戒感を強める。果たしてそれはなぜか。

(聞き手:森 永輔)

北朝鮮が3月25日の朝、弾道ミサイルを2発発射しました。同21日に2発の巡航ミサイルを発射したのに続く動きです。武貞さんは北朝鮮の一連の行動の意図とタイミングをどのように読み解きますか。

武貞:最も大きな狙いはやはり、バイデン米政権がいま対北朝鮮政策の見直しを進めているからでしょう。「われわれは新型戦術誘導弾を開発できるだけの優れた軍事力を持っている。これを忘れてはならない。真っ向から挑むのはあきらめよ」というメッセージを送ったのです。

 ただしタイミングについては米国の動きの他にもいくつかの要素が重なっています。

武貞 秀士(たけさだ・ひでし)氏
拓殖大学大学院客員教授 専門は朝鮮半島の軍事・国際関係論。慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。韓国延世大学韓国語学堂卒業。防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。2011年、統括研究官を最後に防衛省退職。韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書に『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所)、『防衛庁教官の北朝鮮深層分析』(KKベストセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(PHP研究所)など。

弾道ミサイル発射で中国を支援

他にはどんな要素があるのですか。

武貞:大きく3つあります。1つは米国と韓国が3月8~18日に合同軍事演習を実施したからです。これに反発した。米韓に反発していることを北朝鮮内部に向けて示す必要もありました。「やめろ」とメッセージを発したにもかかわらず米韓は実施したので、放っておけば示しがつきません。

 2つ目は、中国からの全面的なバックアップが得られると確信できたことです。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が親書を交わしたことが3月23日に明らかになりました。その中で中朝関係を発展させること、北朝鮮に経済支援を行う意思を明らかにした。北朝鮮を全面的に支援する姿勢を示したものと理解できます。

 この中国の動きは、ロシアと北朝鮮の関係にも影響します。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相とロシアのラブロフ外相が3月23日に中国南部の桂林で会談し「米国による内政干渉とグループづくり(編集部注:同盟強化)」に反対する方針で一致しました。中ロが反米で関係を強めているので、北朝鮮はロシアの後ろ盾も得られると判断したでしょう。

 中ロの動きは北朝鮮の弾道ミサイル発射をめぐって、国連安全保障理事会を2つに割る結果をもたらしました。まず米国が、国連安保理の北朝鮮制裁委員会に調査を依頼。制裁強化を念頭に独自の資料を提出する意向を示しました。安保理の議長を務めるノルウェーも北朝鮮による弾道ミサイル発射を非難しています。これに対して中国とロシアは「北朝鮮に対する制裁を緩和するのが先だ」と主張して、議論は平行線に終わりました。

 そして3つ目の要素は、今回、一連のミサイル発射をしても韓国が北朝鮮に対し強硬に出る可能性がないと分かっていたことです。習近平国家主席と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が1月26日に電話会談し「北朝鮮は対話を望んでいることが、今年1月に開催された北朝鮮の第8回朝鮮労働党大会で明らかになった」との意見で一致しました。韓国も中国も「対話路線の北朝鮮にどう接するか」を考えていることが明らかになっていました。

続きを読む 2/4 バイデン、金正恩による首脳会談もあり得る

この記事はシリーズ「森 永輔の世界の今・日本の将来」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。