プーチン大統領が語る「経済制裁に対する核の報復」を世迷言と受け流すのは危険だ( 写真:ロイター/アフロ)
プーチン大統領が語る「経済制裁に対する核の報復」を世迷言と受け流すのは危険だ( 写真:ロイター/アフロ)

ロシアによるウクライナ侵攻は今後、どのような展開をみせるのか。戦略学者の奥山真司氏は、ロシアが核兵器を使用する際のハードルは非常に低いと指摘する。ウクライナ領内に展開するロシア軍のレーダーを破壊しただけでも、プーチン大統領は核の使用を決断するかもしれない。米国はいかに動くのか。ある机上演習では……

(聞き手:森 永輔)

ロシア軍の動きが、ウクライナの首都キエフの包囲を目指し始めたくらいから精彩を欠いています。これをどう評価しますか。

戦略学者・奥山真司氏(以下、奥山):ロシアはクリミア半島からの南部での作戦はうまくやってきたと評価します。しかし、キエフへの侵攻を含む全体を見渡すと「ひどい」状況です。

奥山真司(おくやま・まさし)
奥山真司(おくやま・まさし)
地政学・戦略学者。1972年生まれ。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学を卒業後、英レディング大学大学院戦略学科で修士号および博士号を取得。青山学院大学や東京大学大学院などで講師を務める。国際地政学研究所上席研究員、戦略研究学会理事。(写真:菊池くらげ、以下同)

 例えば、機甲部隊がキエフに入れず渋滞をなしている映像が流布しています。これは基礎ができていないことの表れです。米軍であれば車両と車両の間を50m離すのが常識。密集すれば、1発のミサイルで複数の車両を失うことになるからです。

 米国の専門家や軍関係者は嘆いていました。「俺たちの強敵だったロシア軍はどこに行ったのだ」と。

 ただし、ロシア軍には底力があります。これから都市攻撃を本格化するでしょう。これは恐れざるを得ません。

米情報機関が汚名返上

その都市攻撃についてうかがいます。仮にキエフがこのまま陥落すれば、バイデン米政権は「キエフを見殺しにした」と国際世論にたたかれることになりませんか。

奥山:西側はウクライナに対し何もしていないわけではありません。いま、フォークランド紛争のときに米国が英国に与えたのと同様の支援をウクライナに提供しています。米国は当時、英国に対する支援を一応は公式に表明しましたが、その態度はアルゼンチンとの関係とバランスを考えた控えめなものでした。しかし、さまざまな情報を英国に提供していました。

*:フォークランドはアルゼンチン沖に位置する島。この領有権をめぐって同国軍と英国軍が戦闘した。英国が勝利

 同様に西側は今、衛星で得た情報や、通信傍受で得た情報をウクライナに提供しているといわれています。対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」が注目を集めています。これらの兵器が威力を発揮するには、ロシア軍の部隊の位置を正確に把握する必要があります。そのために西側が提供する情報が役立っているのです。

 際立っているのは、米情報機関の活躍です。米国の情報機関は昨年8月のアフガニスタン撤退劇において味噌を付けました。「米軍が撤退してもガニ政権は維持できる」としていましたが、同政権はあっという間に国外に逃亡。このため信頼を一挙に失ってしまった。

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