沖縄県・尖閣諸島付近で並走する中国海警局の船(左)と海上保安庁の巡視船(提供元:共同通信)

中国が2月、海警局に「武器使用」を認めたことに耳目が集まる。日本政府は与党に対し、海警局が尖閣諸島への上陸を強行するなら、兇悪犯罪と見なして危害射撃を加える場合があると説明した。「やられたら、やり返す」と聞こえる。これに対して、日本の防衛政策や現場に詳しい香田洋二・元自衛艦隊司令官(海将)は、「国際法をないがしろにしかねない。竹島や北方領土の周辺を航行する海上保安庁の巡視船や、南シナ海で航行の自由作戦を展開する米海軍の艦船を危険にさらす恐れさえある」と指摘する。果たしてそれはなぜか。

(聞き手:森 永輔)

中国が海警法を2月1日に施行しました。海上警備に当たる海警局に武器使用を認めたことが注目されています。例えば第22条で「国家の主権、主権及び管轄権が不法に侵害され、または不法に侵害される危険が差し迫っているとき」は「その侵害を停止し、危険を除去するために、武器の使用を含むあらゆる必要な措置を講ずる権利を有する」との趣旨を定めています。

 例えば海警船が以下の行動に出る懸念が浮上してきました。

ケース1
尖閣諸島周辺の日本の領海内で操業している漁船に対し、違法操業だとして停船命令を出す。拿捕(だほ)されることを恐れて、網やロープを流し、あるいは船体を破損する強度の装備品などを海警船の進路上に投入するなどして追跡を妨害しながら逃げようとする漁船に対して武器を使用する。

ケース2
日本の海上保安庁の巡視船に対して強制退去を命じる。
海警法第21条は、外国の軍艦もしくは公船が中国の法令に違反した場合、退去させるための必要な措置を取れるとし、さらに、退去を拒否する場合は強制撤去、強制えい航の措置が取れると定めている。「武器使用が可能」と明記してはいない、「強制撤去」は武器使用を含むと解釈できる。この場合、武器使用のための要件解釈と決断をするのは中国であり、海警局が日本側の言い分や都合に合わせて武器使用の判断をすることはない。

香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮過程を終了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など(写真:大槻純一)

香田:私は日本政府やメディアをはじめとする人々の目が武器使用にのみ集まっていることを強く危惧しています。中国海警局による武器使用は海警法の本質ではありません。この本質は、海警局の船が「国家の意志に基づいて、中国が領土と主張する尖閣諸島を奪取する」行動を取る可能性が高まったことです。このことを理解し、尖閣諸島をいかにして守るのかをきちんと考えるべきです。

 武器については、日本の海上保安庁も一定の条件を満たせば警察官職務執行法を準用して使用することが認められています。言及されたケース1もケース2も、同法が正当防衛、緊急避難のための危害射撃を許しているので、これを適用すれば事足りる話です。武器使用の規定があることをもって海警法を非難したり、恐れたりすることは問題の本質を見失います。武器使用について申し上げれば、その問題は、海警法が定める武器使用の条件と程度が警察官職務執行法のそれと同等か否かです。

(武器の使用)
第七条 警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。

但し、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。(後略)

 関連してお話しすると、「中国海警局の船が軍艦並みの武器を備え始めている」と懸念する声も、現時点においては公平を欠くと思います。76mm速射砲を装備するといわれる海警局の船は最近建造されたタイプです。海上保安庁の発表によく出てくる、尖閣諸島周辺で一団となって行動する4隻からなるグループの多くはそれ以前の無武装タイプであり、武装しているのは1隻というケースがほとんどです。中国はこのグループを3~4セット配備して、尖閣諸島周辺の海域を交代制で24時間365日航行する体勢を取っているものとみられます。

 これに対して海上保安庁は沖縄県石垣島に尖閣諸島専従として10隻の巡視船を配備しています。それぞれの性能は世界最高水準でいずれも20~40mmの機関砲を装備しています。将来は分かりませんが、現時点においては、隻数ではやや劣るものの全体として中国にひけを取るものではありません。

 よって、中国が海警法を施行したのを奇貨として我々が考えるべきは、武器使用という「木」ではなく尖閣諸島をいかに守るかという「森」なのです。

続きを読む 2/5 海警局による尖閣諸島への上陸強行も

この記事はシリーズ「森 永輔の世界の今・日本の将来」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。