米国のバイデン大統領は、ウクライナとポーランドに相次いで訪れた(写真=AP/アフロ)
米国のバイデン大統領は、ウクライナとポーランドに相次いで訪れた(写真=AP/アフロ)

欧州の安全保障の最前線が、ドイツからポーランドなど中東欧諸国に移りつつある。米国が在欧米軍の司令部を、ドイツからポーランドに移すのはその表れだ。NATOとロシアが対峙する最前線は、ドイツからはるか東に移動する。

 米国のジョー・バイデン大統領は2月20日にウクライナの首都キーウ(キエフ)を電撃訪問した後、隣国ポーランドを訪れた。

 バイデン大統領はワルシャワでの記者会見で「我々は1年前、ロシア軍の攻撃によってキーウが短期間で陥落するのではないかと危惧した。しかし私は昨日、キーウを訪れた。ウクライナは自由な国として、誇り高く生き残っている」と述べ、ウクライナが頑強な抵抗を続けていることを称賛した。

 さらに同大統領は「ロシアのウクライナ侵攻は、自由世界が経験する最も困難な試練だ。この試練に対し、我々は拱手傍観(きょうしゅぼうかん)することなく、同盟国と団結して立ち向かった。ポーランドの人々が歴史の経験からよく知っているように、強権国家の脅威に対しては宥和政策を取ってはならない。戦う以外の選択肢はない。独裁者たちに与える言葉は『NO』以外にない。『独裁者たちは私の祖国、自由、未来を奪うことはできない』と言うしかない」と語った。

 バイデン大統領は「北大西洋条約機構(NATO)は、世界の歴史の中で最も高い実行力を持ち、義務を守る軍事同盟だ。NATOの結束が今ほど固くなったことは、過去に一度もなかった」として、NATOの重要性を改めて強調した。

 また同大統領は、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領に対し「我々は欧州の安全を保たなくてはならない。そのため、欧州諸国が米国を必要とするのと同じように、米国はポーランドを必要とする」と述べ、ロシアがウクライナに侵攻して以降、ポーランドの重要性が高まったとの見方を打ち出した。

 両大統領による共同記者会見で印象に残ったのは、バイデン大統領がドゥダ大統領に対し「ウクライナを力強く支援してくれてありがとう。ポーランドの貢献は本当に素晴らしいものだ」と最上級の謝意を口にしたことだった。

 ポーランドは欧州で最も積極的にウクライナを支援している国の1つだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ポーランドは今年2月28日の時点で、ウクライナからの避難民約156万人を滞在させている。これは欧州で最多である。欧州に滞在しているウクライナ避難民(約489万人)のうち32%をポーランドが受け入れたことを意味する。政府が宿泊施設を提供するだけではなく、多くの市民たちもウクライナ人たちを自宅に受け入れている。

戦車の供与をためらうドイツにポーランドが圧力

 ポーランドは軍事面でも、ウクライナを最も積極的に助けている。例えばNATO加盟国の中でウクライナに最初に戦車を送ったのはポーランドだ。

 ポーランドは、2022年4月中旬という早い時点で、旧ソ連製T72戦車約240両をウクライナ軍に供与した。ポーランドは第2次世界大戦後ワルシャワ条約機構に組み入れられていたため、旧ソ連製の戦車を多数保有していた。当時NATOでは、レオパルト(ドイツ製)やチャレンジャー(英国製)など、西側諸国で製造した戦車や装甲歩兵戦闘車をウクライナに送ることはタブーとされていた。「ロシアが交戦国と見なす」懸念があったためだ。ポーランドは「旧ソ連製戦車ならばこの規則に抵触しない」と独自に判断して、ウクライナに戦車を送った。

 さらにポーランドは昨年4月、ウクライナ政府が希望していた旧ソ連製のミグ戦闘機を供与することも検討した。ただし、こちらは断念せざるを得なかった。NATOは、戦闘機についてはその製造国を問わずウクライナへの供与を禁じることを暗黙のルールとしている。

 ウクライナへの戦車供与をためらうドイツのショルツ政権の背中を押したのも、ポーランド政府だった。ウクライナ政府はロシア軍の春季大攻勢に対抗するために、約300両の西側製戦車を希望していた。これに対しドイツは「ロシアがドイツを交戦国と見なす」のを懸念し、自国が保有するレオパルト2のウクライナへの供与を半年近く拒んでいた。さらに、他国が保有するレオパルト2のウクライナへの供与も承認せずにきた。ドイツは欧州、カナダ、アジアの国々に約2000両のレオパルト2を輸出している。

 多くのNATO加盟国がドイツの態度を批判したが、オラフ・ショルツ首相は「西側製戦車をNATOで最初にウクライナに送る国」になることに二の足を踏んだ。実務的かつ官僚的な性格のショルツ首相は、派手な振る舞いを嫌う政治家で、対外的なイメージやメッセージを重視することがない。同氏にとっては、どんなに時間がかかっても、ドイツにとって正しい決定をすることが全てである。決定に至る過程や、他国からの批判、決定の遅れがもたらすイメージの悪化は気にしない。

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