
韓国政府が3月6日、元徴用工をめぐる問題についての解決策を発表した。日韓請求権協定の交渉に詳しい波多野澄雄・筑波大学名誉教授は「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が大きな譲歩を決断した」と評価する。ただし、今後の展開は楽観視できない。日韓の関係改善は何度も頓挫した経緯がある。今回の機運を維持・継続するために何が必要か。同協定の締結に至る議論も踏まえて考える。
(聞き手:森 永輔)
韓国政府が3月6日、元徴用工をめぐる問題についての解決策を発表しました。波多野さんはこの解決策のどこに注目しましたか。
波多野澄雄・筑波大学名誉教授(以下、波多野氏):尹大統領が大きな譲歩をしたことです。韓国政府傘下の日帝強制動員被害者支援財団が賠償金相当の金額を原告に支払います。進歩派の文在寅(ムン・ジェイン)政権(当時)では考えられない決断です。
これに対して、日本政府も被告である日本企業も何もコミットしていません。岸田文雄首相が「歴史認識については、1998年10月の日韓共同宣言を含め歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と発言しました。これは過去の合意を継承するだけで、新たに何かの合意をするわけではありません。

尹大統領はなぜ一方的に大きな譲歩をしたのでしょう。
波多野氏:理由の1つは現在の国際環境だと思います。対米関係や北朝鮮の核・ミサイル問題を踏まえて、日本との関係改善を重視した。
韓国が主導的に動いて日米韓が関係を強化すると、韓国は中国ににらまれるリスクがあるのではありませんか。
波多野氏:確かにそういう面はあるかもしれません。しかし、北朝鮮の脅威に対抗するのが明確であれば、中国もそれほど気にしないのではないでしょうか。
また、韓国国内の状況に目を向けると、元徴用工問題は慰安婦問題に比べて解決しやすいとの判断があったと推測します。元徴用工を支援する団体は、元慰安婦を支援する団体に比べてそれほど強力ではないため、「反対が起こっても押さえ込める」と考えたのでしょう。また、元徴用工問題は韓国内にとどまっており、慰安婦問題のように国際的に拡散してはいません。
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