ロシア兵とみられる所属不明の武装勢力が2014年、クリミア半島セバストポリにあるウクライナ海軍の司令部を掌握した(写真:ロイター/アフロ)
ロシア兵とみられる所属不明の武装勢力が2014年、クリミア半島セバストポリにあるウクライナ海軍の司令部を掌握した(写真:ロイター/アフロ)

笹川平和財団の小原凡司・上席研究はロシアのウクライナ侵攻をめぐって「3月1日に戦争のモードが変わった」と指摘する。「政治的軍事作戦」から軍事作戦へとモードを切り替わったという。何が異なり、ロシアはどう動くのか。

(聞き手:森 永輔)

(前回「ウクライナ侵攻と台湾武力統一、先にやった方が得」はこちら

目をロシアに転じます。ロシアが取る今後の展開について見込みを伺います。

 その前提として、小原さんは「3月1日に戦争のモードが変わった」と指摘されています。これはどういう意味ですか。

3月1日に戦争のモードが変わった

小原凡司・笹川平和財団上席研究員(以下、小原):プーチン大統領はそれまで「政治的軍事作戦」を遂行していました。今回の作戦を戦争ではない「平和維持のための特殊作戦」と位置づけ、ウクライナ領の占領は計画にないと表明していました。民間人を傷つける意図もなかったと思います。

小原 凡司(おはら・ぼんじ)
小原 凡司(おはら・ぼんじ)
笹川平和財団 上席研究員 専門は外交・安全保障と中国。1985年、防衛大学校卒。1998年、筑波大学大学院修士課程修了。1998年、海上自衛隊第101飛行隊長(回転翼)。2003~2006年、駐中国防衛駐在官(海軍武官)。2008年、海上自衛隊第21航空隊副長~司令(回転翼)。2010年、防衛研究所研究部。軍事情報に関する雑誌などを発行するIHS Jane’s、東京財団を経て、2017年10月から現職。(写真:加藤 康)

 実際の攻撃も非常に丁寧に進めていたとの印象を受けました。防空システムをはじめとする軍事施設を精密攻撃し制空権を奪取。その後、陸軍の少数部隊を派遣し、首都キエフを短期間で陥落させる考えだったのでしょう。そして政治的な要求を受け入れさせる。

 ところが、ウクライナ軍が頑張り、作戦が想定以上に長引くことになりました。

 ウクライナ軍が頑張っているのは、「祖国を守る」という明確な目標があるからです。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が「私はここにいる。武器を置くことはない」と、自ら戦う姿勢を示したこともウクライナの人々の士気を高めました。このため「自分も武器を持って戦う」と立ち上がる人が現れてきました。これは非常に大きなことです。加えて、米国が供与した対戦車ミサイル「ジャベリン」をはじめとする武器も力を発揮しているでしょう。

 これに対してロシア軍の士気は高まりません。何のために戦っているのか理解できない兵士が多くいると思います。ウクライナに近親者がいる兵士も少なくない。理由もなく、ウクライナ人の命を奪う行動に抵抗を覚えているのではないでしょうか。

 長引く戦況を見てプーチン大統領は、軍事力を使った「政治的軍事作戦」では十分な成果が上げられないと判断したのだと思います。軍事的に見ると、合理的とは言えない作戦でしたから。そこで、3月1日にモードを切り替えた。軍事的合理性を追求するだけでなく、民間人の犠牲さえいとうことなく、無差別に攻撃して地域を制圧する軍事作戦にシフトしたのです。

 ロシア軍がこの日、ウクライナ第2の都市ハリコフでクラスター爆弾を使用したとの疑惑が持ち上がっています。

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