ロシアのウクライナ侵攻に反対する運動が台湾でも起きている(写真:AP/アフロ)
ロシアのウクライナ侵攻に反対する運動が台湾でも起きている(写真:AP/アフロ)

習近平国家主席とプーチン大統領は危機感を共有している。AUKUSの発足や日米同盟の強化は中国にとって、ロシアにとってのNATO東方拡大に相当する。 中国の軍事戦略に詳しい小原凡司・笹川平和財団上席研究員は「ロシアがウクライナ侵攻に着手したタイミングを習近平国家主席は好ましく思っていない」とみる。 果たして、それはなぜなのか。

(聞き手:森 永輔)

中国は今、ロシアによるウクライナ侵攻をどう見ているでしょう。

小原 凡司(おはら・ぼんじ)
小原 凡司(おはら・ぼんじ)
笹川平和財団 上席研究員 専門は外交・安全保障と中国。1985年、防衛大学校卒。1998年、筑波大学大学院修士課程修了。1998年、海上自衛隊第101飛行隊長(回転翼)。2003~2006年、駐中国防衛駐在官(海軍武官)。2008年、海上自衛隊第21航空隊副長~司令(回転翼)。2010年、防衛研究所研究部。軍事情報に関する雑誌などを発行するIHS Jane’s、東京財団を経て、2017年10月から現職。(写真:加藤 康)

小原凡司・笹川平和財団上席研究員(以下、小原):中国は今も引き続きロシアを支持していると思います。

 習近平(シー・ジンピン)国家主席はウラジーミル・プーチン大統領と危機感を共有しています。どちらも現状を「自分たちの領土もしくは勢力圏の一部が自分たちのものになっていない。取り戻す必要がある」「自国の発展や安全を欧米諸国が疎外している」「米国による一極体制は不都合である」と認識している。

中国は、ロシアがNATO(北大西洋条約機構)東方拡大を脅威に感じていることに理解を示し、2月4日の中ロ首脳会談後に発表した共同声明に「これ以上の拡大に反対する」と盛り込みました。

小原:状況は異なり、簡単に比較できませんが、ロシアにとってのウクライナが中国にとっての台湾に相当します。そして、ロシアにとってのNATO東方拡大は中国にとってインド太平洋地域における米国の同盟強化です。中国の目には「米国が同盟国との関係を強化し、中国を囲い込もうとしている」と映っているのです。

 実際、米国のトニー・ブリンケン国務長官やロイド・オースティン国防長官が「統合抑止」を推し進める考えを示しています。ここでの「統合」は軍における陸・海・空軍の統合のみならず、同盟国・パートナー国との連携強化を含む概念です。

 中国はAUKUSの発足に敏感に反応しました。

AUKUS(オーカス)は、米国と英国、オーストラリアが2021年9月に合意した、新たな安全保障協力の枠組みですね。具体的な協力の第1弾として、オーストラリアが新たに原子力潜水艦を開発する計画に、米英両国が協力することになっています。

* AUKUSは3カ国の略称を並べた

小原:加えて、日米同盟の強化にも神経をとがらせています。日本を米国から引き離そうとする取り組みも目に付きます。日米が1月7日に日米安全保障協議委員会(日米2+2)を開いた後、環球時報が以下の趣旨の社説を掲載しました。「私たちは特に日本に対して言いたい。台湾問題に関与する米国に日本の領土を提供するならば、それは日本にある軍事施設を攻撃目標として人民解放軍に差し出すようなものだ。日本政府は米国に追随することがどれだけ危険なことか理解しているのか」

 日本の領土を米軍が自由に使えるようになれば、それは米軍が中国との国境にまで至ることを意味します。この意味においてロシアにとってのNATO東方拡大と同じなのです。中国はこれまで「日本だけならば口だけで何もしない」と見ていましたが、米国が本気で乗り出してくるとなれば事情が変わります。感じる威圧が大きく高まりました。

 中国を取り巻くこうした状況は変わっていません。よって、中国は今もロシアを支持していると考えます。

北京パラリンピック直前の侵攻に中国が驚かなかった理由

 ただし、ロシアがウクライナ侵攻に着手したタイミングは「好ましくない」と見ているでしょう。

それはなぜですか。北京オリンピック大会は終わったものの、同パラリンピック大会がまだ終わっていないからでしょうか。

小原:そうではありません。確かに「習近平国家主席が2月4日の中ロ首脳会談の場で、オリンピック期間中はウクライナ侵攻を始めないようプーチン大統領に要請した」との疑惑が報道されています。実際に要請したのでしょう。

 しかし習近平国家主席は私たち以上にプーチン大統領のことを理解しています。プーチン大統領が北京オリンピック大会に配慮することはないと分かっている。だからこそ、習近平国家主席はプーチン大統領に配慮を要請したのです。

 「ロシアによるウクライナ侵攻を中国は止めなかった」との批判があります。これはお門違いではないでしょうか。習近平国家主席が止めたところで、プーチン大統領は止まりません。

 そもそもプーチン大統領が中国や習近平国家主席を対等な存在と見ているかさえ怪しい面があります。表向きは、中国のジュニアパートナーに甘んじるそぶりを見せていますが、本音のところは分かりません。少なくとも中国は、ロシアは中国を軽んじているようだと見ています。歴史を振り替えると、ロシアが長くシニアの位置にありましたから。

習近平国家主席が配慮を要請したものの、ロシアは中国に事前に知らせることがなかったといわれています。中国はどう思ったでしょう。

小原:中国はそもそもロシアをそんなに信用していません。事前の通告は期待していなかったと思います。それに、さまざまチャネルを通じてロシアの動向を追い、「やる」ことは分かっていたでしょう。それゆえ、習近平国家主席はプーチン大統領に配慮を要請したのです。

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