家族は木更津で震災と戦った

この任務に当たることをご家族にはいつ、どのように伝えたのですか。

加藤:ヘリ放水を実施した後、もしくは、その翌日だったでしょうか。

 実は、3月11日に木更津を出発したことすら伝えていませんでした。出動命令が出て、必要な物資、機材を積み込んでいるうちに出発時間になってしまったからです。仙台に到着した後、2~3日は携帯電話が通じませんでしたし。

 でも、私が被災地に来ていることを家族は知っていたと思います。当時は自衛隊の官舎に住んでいて、私と同様に帰宅しない隊員が近所にたくさんいたはずですから。

え、ならば、ヘリ放水がテレビで放送されていたとき、ご家族は加藤さんが乗っていると知らずに見ていたわけですね。

加藤:見ていたかどうかも分かりませんでした。木更津も津波を受けて、たいへんなことになっていました。自宅の車は津波のせいで浮いてしまい、廃車することになりました。

 ヘリ放水を実施した3月17日は小学校6年生の子供の卒業式でした。停電のため、体育館が暗かったので、ろうそくに火を灯して、式を行ったそうです。

【編集注】

 加藤氏は、「家族軽視と言われると困るのですが」と頭をかく。任務が一段落し、木更津の自宅に初めて帰れたのは、春の連休のころだった。

傍白

 加藤氏が「(ヘリ放水任務を終えても)達成感を覚えなかった」と発言したことに触れた。しかし、本人の認識と異なり、世界は自衛隊をはじめとするオールジャパンの震災対応を高く評価した。スペインのフェリペ皇太子が2011年10月、福島第1原発事故の対応に当たった警察、消防、自衛隊の現場指揮官5人に「共存共栄賞」を授与した。このうちの一人に加藤氏も名を連ねた。

 同賞は「人類への貢献」を顕彰するもので、「スペインのノーベル賞」と呼ばれる。かつて緒方貞子氏・元国連難民高等弁務官(国際協力部門)も受賞している。

 同国北部オビエドで行われた授与式で同皇太子は「日本社会の結束に感銘を受けた。世界の模範になるものだ。英雄たちの勇気と強さにも感動した」と発言した。

 この評価は図らずも、加藤氏が自衛官を目指した理由の一端を実現するものとなった。同氏は、1992年に自衛隊が国連PKO(国連平和維持活動)に初めて参加したのを目にして、「海外に困っている人がいる。日本人として彼らを助けることに貢献できたら」と夢を膨らませた。しかし「どこにも(編集部注:困っている人を助ける任務で海外に)行ったことがなかった」という。

 未曽有の任務である福島第1原発3号機へのヘリ放水は加藤氏に、人助けを媒介にした海外とのつながりをもたらすことになった。

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