ロシアがハイブリッド戦でなくガチンコを選んだわけ

そのせいでしょうか。今回の侵攻は軍事力以外のさまざまな手段を講じるハイブリッド戦争の性格が薄い印象があります。

* 防衛省は「軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法」と説明する。戦場での戦闘だけでなく、破壊工作、サイバー攻撃、情報操作など多様な手段を用いる。ロシアが2014年に実施したクリミア半島併合が典型例とされる

小泉:そうですね。その点は、プーチン大統領の雑さとともに、もう1つ別の理由が考えられます。2014年のウクライナ危機の教訓です。

 ロシアはクリミア半島の併合と並行して、東部ドネツク州とルガンスク州の親ロシア派武装勢力を支援して、それぞれの州の一部を実効支配させることに成功しました。このとき実は、ウクライナ東部に位置する同国第2の都市ハリコフでも騒乱を起こそうとしました。ロシアにとってよいところまで進んだのですが、結果は戦闘を起こすことができずに終わりました。

 ドネツク州とルガンスク州においても、親ロ派武装勢力が支配できたのはそれぞれの州の一部でしかありません。このためロシアはハイブリッド戦によってウクライナ東部を分離状態にすることはできないと理解したのです。なので今回は、大量の兵士を動員して真っ向から戦争を仕掛けたのだと考えます。

 ハイブリッド戦はうまくいく場所や場面が限られているのです。手間がかかり面倒くさいし、不確実性も高い。

ハリコフのがんばりは奇跡的

ウクライナ側の対応についてお伺いします。ここまでのウクライナの対応をどう評価しますか。

小泉:かなりがんばっていると思います。ロシア軍が実際に侵攻を始める前、「キエフは2日で陥落する」という見立てがありましたが、侵攻開始から7日目を迎えてもまだハリコフすら陥落していません。

 これは奇跡と言っても過言ではありません。ハリコフはロシアとの国境からわずか30kmしか離れていません。しかも、その国境の向こうにはロシア軍の主力である機甲部隊がいるのです。これに攻められつつも耐えしのいでいる。

 ロシアは昨年4月、ウクライナとの国境周辺に部隊を集結させました。その後「撤退した」との情報もありましたが、実際には撤退していなかったと思います。なので、ウクライナはこの1年の間、陣地などを築いて侵攻に備えていたのでしょう。塹壕(ざんごう)を掘ったり、塹壕と塹壕をつなぐ通路を造ったり。

先に属国化したベラルーシを拠点に侵攻開始

小泉さんはベラルーシの動向に注目していますね。

小泉:プーチン大統領はウクライナに中立化と非軍事化を要求し「属国化」しようとしています。ベラルーシはウクライナに先んじてロシアに首根っこを押さえられ、属国となってしまいました。

ベラルーシにも制裁を科す動きが始まりました。ベラルーシがロシアに離反する可能性はありませんか。反戦デモが世界各地で起こっています。ベラルーシは「このままロシアにくみしているのは得策でない」という判断をしないでしょうか。

小泉:以前のアレクサンドル・ルカシェンコ大統領ならばプーチン大統領に対して手のひらを返したかもしれません。しかし今は無理だと思います。同大統領の地位はプーチン大統領の“お情け”で保たれている状態ですから。

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