ロシアは中国に、侵攻を事前に知らせなかった

中国はどこまでロシアを支援するでしょうか。

名越:ロシアと中国は決して一枚岩ではないと考えます。プーチン大統領も根底では中国を信用していないでしょう。プーチン大統領はウクライナ侵攻を中国に事前に知らせなかったようです。

 その証拠に、中国はウクライナで暮らす約1万6000人の中国人に事前に退去勧告を発することができませんでした。今回のキエフへの攻撃の仕方を見ると、ロシア軍が在ウクライナ中国人だけを選んで安全を確保することはできないでしょう。在ウクライナ中国大使館も退避することなく業務を続けていました。つまり、ロシアは中国に事前に知らせることで便宜を図ることをしなかった。

 また、2月4日の中ロ首脳会談の後に出された共同声明に「ウクライナ」の文字はありませんでした。これは、両首脳が非公開で会談したときに、この問題をめぐって意見が一致しなかったことを示唆していると思います。

ウクライナは今のところロシアに徹底抗戦する構えです。ゼレンスキー政権に対するウクライナ国民の支持は揺るがないでしょうか。

名越:私はウクライナ国民の支持は堅いとみています。いずれの国でも、危機になればリーダーの下で結集するものです。それにゼレンスキー大統領は2019年の民主的な選挙を経て国民が選んだ大統領ですから。しかし、同大統領がキエフにとどまる限り、市街戦が続き、極めて危険な状態となります。交渉で妥結しなければ、戦力格差からみて、同大統領の投降または亡命があるかもしれません。

一般のウクライナ国民はロシアをどのようにみているのでしょう。

名越:それを知る指標の1つが、ウクライナにおけるNATO加盟支持の多寡だと思います。今回の侵攻前に結果が公表された世論調査で、支持が62%に上りました。この割合は、2010年ごろは10%程度だったので大きく高まっています。

 ただし、ロシア系住民はNATO加盟を望まない傾向があります。ウクライナ人でも、高齢者はあまり望みません。冷戦時代に西側と対立していた記憶が残っているからです。若い世代はNATOと欧州連合(EU)志向です。

ロシアは一国資本主義で長期戦を耐える体勢を整えている。ウクライナの世論はゼレンスキー政権を支持し続ける。この対立を収める力があるのはロシアの世論だけですね。西側諸国には手詰まり感があります。

名越:そのロシア人の動きが活発とは言えません。一部でデモが起きていますが、これだけの無謀な行動に対する反発としては不十分です。ロシアの歴史における恥と言っても過言ではないのに。

 ロシア国民が大規模に立ち上がることがないのは、メディア統制により、国民がまだ戦争の真実を知らないからかもしれません。他方、プーチン大統領による一種の愚民政策の効果もあるはずです。生活の質の向上というアメと威嚇というムチによって、ロシア国民の間で反政府運動が盛り上がるのを抑えているのです。

 ロシアはプーチン政権下で初めて豊かな消費社会を実現しました。ブランド品や車も買えるようになりました。海外旅行もできる。これが、プーチン政権が長期で続いている理由の1つです。ロシア国民はこの豊かさを手放したくはないでしょう。

 他方、国民は政府による弾圧を恐れています。反体制派の指導者ナワリヌイ氏への厳しい抑圧を見ているので、ウクライナ侵攻に反対する運動にも二の足を踏んでいる面があると思います。

 ただし、ロシアではここ数年、国民の所得が減少しています。インフレ率も高じている。2019年からは年金の受給年齢が引き上げられました。ウクライナとの争いが長期化し、戦況が泥沼化すれば、反戦運動が一気に拡大する可能性もあり、この点がプーチン政権が短期決戦を目指すゆえんです。

日本貿易機構(JETRO)によるとロシアの2021年のインフレ率は8.1%。2021年1~11月の砂糖価格の上昇率は約36%。卵の価格は約25%上昇しました。

名越:経済制裁によって生活の質が下がれば、それに反比例して国民の不満は高まるでしょう。ウクライナに住む親族に死者が出れば怒りも生まれる。ウクライナ侵攻のネガティブな側面がロシア国民を動かすことになるのか。そこが今後の焦点の1つと考えます。

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