KGB流の発想しかできない密室政治

そのようなプーチン大統領の行動をとどめる側近はいないのでしょうか。

名越:残念ながらいないと思います。プーチン政権の政策は5人程度からなるインナーサークルで決められます。プーチン大統領のほかパトルシェフ・ロシア連邦安全保障会議書記、ボルトニコフ連邦保安局(FSB)長官、ナルイシキン対外情報局(SVR)長官、ショイグ国防相らが集まります。

 ショイグ国防相を除く4人はいずれも、1970年代後半にレニングラード(当時)でKGB*の同僚として活動していました。「反米」「帝国志向」という同じような考えを持った人ばかりが集まっているのです。

*:ソ連時代の秘密警察。国家保安委員会。治安維持活動や対外諜報(ちょうほう)活動を行った

これまでのお話を振り返って考えると、仮にゼレンスキー政権がミンスク2合意を履行していたら、今回の軍事侵攻はなかったのでしょうか。

名越:そうかもしれません。

 しかし、ミンスク2合意の履行を迫ったことそのものがプーチン大統領による欺瞞(ぎまん)だった可能性もあります。同大統領は2月7日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とミンスク2合意の履行で合意しました。しかし、2月21日にウクライナ東部の親ロ派支配地域の独立を承認。22日には、ミンスク2合意は「もはや存在しない」と発言し、停戦合意を破棄しました。そして24日に侵攻を開始した。

 ミンスク2合意をめぐる話し合いをする一方で、軍事侵攻の準備を着々と進めていたわけです。17万人もの兵を動員。仮設病院を建て、輸血用の血液も輸送していました。

“一国資本主義”で制裁に対抗

プーチン大統領がウクライナ解体を視野に入れた行動を進めると、西側諸国による制裁がさらに強度を増すことになります。ロシアの耐性をどう評価しますか。

名越:ロシアはかなりの耐性を持っています。原油高が続く中でためこんできた外貨準備高は約6500億ドルに達しました。2月4日には、プーチン大統領が中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談し、ロシアが年間100億立方メートルの天然ガスを中国に追加供給することで合意。決済は元とルーブルで行うので、西側が科す金融制裁の影響をあまり受けません。制裁に耐える体勢づくりを着々と進めてきた印象を受けます。

 プーチン大統領は長期戦を覚悟しており、欧米の経済と切り離されても「一国資本主義」体勢で耐える考えなのでしょう。スターリンは「一国社会主義」でしたが。

 ロシアは資源に恵まれた国です。石油やガスのエネルギーはもちろん食糧においても輸出国。エネルギーも食糧も自給自足が可能なのです。

農林水産省の食料安全保障月報(2022年1月)によると、直近の3年度平均で小麦の輸出量は約3600万トンで世界1位、大麦は510万トンで世界2位、トウモロコシは360万トンで世界6位に位置しています。ソ連崩壊後、小麦とトウモロコシの生産量は大幅に増加したといいます。

 西側諸国は半導体をはじめとするハイテク製品の供給を規制する構えです。この影響はありませんか。

名越:幸か不幸か、ロシアには半導体をたくさん使用する産業がありません。一部の先端兵器や航空機生産、IT(情報技術)産業には打撃がありそうです。

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