ロシアのプーチン大統領が2月21日に、ウクライナ東部で親ロ派が支配する地域の独立を承認。同24日朝には軍事作戦を実行する方針を表明した。同地域が「ロシアに助けを求めている。ウクライナ政府によって虐げられてきた人々を保護する」との理由だ。「ウクライナ領土の占領は計画にない」というものの、親ロ派支配地域のみならず首都キエフでも爆発音が聞こえたとの情報がある。

 次の一手としてどのようなシナリオが考えられるか。ベルギー防衛駐在官、またNATO連絡官としての勤務経験を持つ長島純氏は「黒海の聖域(軍事要塞)化や、バルト3国と他のNATO諸国との分断が考えられる」という。

(聞き手:森 永輔)

ウクライナ東部で親ロ派勢力が支配する地域の独立をプーチン大統領が承認したことに抗議するウクライナの人々(写真:ロイター/アフロ)
ウクライナ東部で親ロ派勢力が支配する地域の独立をプーチン大統領が承認したことに抗議するウクライナの人々(写真:ロイター/アフロ)

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月21日、ウクライナ東部ドンバス地域の一部を実効支配する親ロ派勢力「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認。「この地域の住民をウクライナ軍による攻撃から守るため」との名目でロシア軍の派遣を指示しました。ウクライナをめぐる緊張がますます高まっています。

 長島さんはロシアの軍事侵攻について最近2つのシナリオを提示されました。

長島純・中曽根平和研究所研究顧問(以下、長島):私は、歴史と地理の観点から、プーチン大統領は大規模な軍事侵攻という選択肢を取らないとみています。プーチン大統領の最終的な望みは、欧州から米国の影響力を排除して、旧ソ連時代の版図を取り返すことだからです。単にウクライナを勢力圏に取り戻すだけでは十分ではありません。プーチン大統領にとって、ウクライナへの軍事作戦は目的ではなく一手段でしかなく、欧州は終わりの見えない戦いが始まったと考えるべきです。

<span class="fontBold">長島純(ながしま・じゅん)</span><br />中曽根平和研究所研究顧問、NICT量子ICT協創センター招聘専門員。専門は欧州安全保障、新領域(宇宙、サイバー、電磁波)、防衛技術イノベーション。1960年生まれ。1984年に防衛大学校を卒業して航空自衛隊に入隊。統合幕僚監部首席後方補給官、情報本部情報官、内閣官房審議官(危機管理担当)、および国家安全保障局審議官を歴任。2019年、航空自衛隊幹部学校長を最後に退官
長島純(ながしま・じゅん)
中曽根平和研究所研究顧問、NICT量子ICT協創センター招聘専門員。専門は欧州安全保障、新領域(宇宙、サイバー、電磁波)、防衛技術イノベーション。1960年生まれ。1984年に防衛大学校を卒業して航空自衛隊に入隊。統合幕僚監部首席後方補給官、情報本部情報官、内閣官房審議官(危機管理担当)、および国家安全保障局審議官を歴任。2019年、航空自衛隊幹部学校長を最後に退官

 プーチン大統領の目にロシア周辺の地図は次の3つに色分けされて映っていると考えます。第1は旧ソ連圏。ロシアのほか、ウクライナ東部やジョージアが含まれます。第2は併合圏。ロシア革命や第2次世界大戦前後の混乱の中で併合したバルト3国やウクライナ西部などです。そして第3が影響圏。中・東欧諸国がこれに当たります。旧ソ連圏の国々を、戦略的要衝としてロシアの側にとどめておく。そして、併合圏や影響圏の国々から、米国、NATO(北大西洋条約機構)、EU(欧州連合)などの影響力を排除することがプーチン大統領の目標なのです。

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