
ロシアがウクライナに侵攻してから約1年がたつ。小泉悠氏はこれを振り返って「核の抑止力をまざまざと見せつけた。ロシアは核の威嚇によって北大西洋条約機構(NATO)との直接対決を避け、ウクライナとの2国間戦争にとどめている」と見る。だが「その財政負担は重く、ロシアの今後の力をそぐ」。多極化していく国際関係においてロシアが座るいすは残されているだろうか。
(聞き手:森 永輔)
(前回はこちら)
ロシアは全面戦争という手段で、ウクライナの属国化という目的を達成できるものでしょうか。
小泉氏:全面戦争によってウクライナの首都キーウ(キエフ)を占領し、ゼレンスキー大統領を処刑する、というシナリオはあり得ると思います。これが本来、ロシアが目指していたシナリオなわけですが、一度失敗しているので、そう簡単にいかないことは分かっているでしょう。

そのほかにも、ウクライナの東半分を占領して傀儡(かいらい)政権を立てる。もしくは、東半分を占領して、「返還してほしければNATOへの加盟を諦めろ」などの政治要求をのませる、といったことが考えられます。東半分を“人質”にして、属国化と武装解除、中立化をウクライナに実行させるわけです。ウクライナ東部ドンバス地方を押さえようとした背景にはこうした意図があったと思います。
後は、ハイブリッド戦争が失敗した時点で当初の目的を諦め、代わりに、戦争を継続して広い領域を確保することに方針を転換したのかもしれません。そうすることで、国民に対して言い訳ができます。何も得ることなくただ撤退するのではない、と。2022年9月30日の4州併合宣言*は、こうした意図の表れと見ることができるでしょう。
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