
ロシアがウクライナに侵攻して1年がたつ。この事態は、21世紀に暮らす我々に何を意味するのか。東京外国語大学の篠田英朗教授と考える。浮かび上がるのは「集団的自衛権」がもたらす抑止力だ。
(聞き手:森 永輔)
(前回はこちら)
篠田英朗・東京外国語大学教授(以下、篠田氏):東欧諸国がNATO(北大西洋条約機構)に加盟しない状態で、ロシアがウクライナに侵攻したらどうなっていたでしょう。ロシアは戦車部隊を、ウクライナを越えてさらに西方へと展開したかもしれません。そうなれば、第2次世界大戦の再来です。ナチス・ドイツとソ連ならぬ、東方拡大しなかったNATOとロシアとが東欧を取り合う構図が再び生じてしまいます。
実は、第1次大戦後に設立された国際連盟は、同大戦によってドイツ帝国とオーストリア帝国、オスマン帝国が崩壊した後、東欧・バルカン半島に新たに誕生した小さな主権国家の独立と安全を維持するための仕組みでした。

国際連盟の過ちを繰り返さない
国際連盟が築いた集団安全保障体制は東欧を守るという意味が大きかったのですね。 ちなみに「集団安全保障」と「集団的自衛権」は異なる概念。「集団的自衛権」は主に「同盟」がベースとなります。例えばA国とB国が同盟しているとする。この同盟の外にあるC国がA国を攻撃した場合に、B国がA国と共に戦う権利を集団的自衛権と呼びます。このとき、A国に対する攻撃を、B国は「自国に対する攻撃」と見なす。NATOと日米同盟は、加盟国もしくは締約国が集団的自衛権を行使する枠組みです。 他方、「集団安全保障」は、現代で言えば「国連安全保障理事会の決議に基づく強制措置」をベースとする概念です。加盟国Dが加盟国Eを攻撃した場合に、他の全ての加盟国が「自国に対する攻撃」と見なし、加盟国Dと戦うフレームワークです。
篠田氏:国際連盟は、米国が加盟しなかったこともあり弱体な存在にとどまりました。1939年にドイツとソ連がポーランド分割を進めたとき、ポーランドのために戦ったのは英国とフランスだけだったのです。つまり、力の空白を埋めきれなかった。
しかし、NATOが東方拡大を決め、その加盟国となっているポーランドに、ロシアは今回1ミリたりとも侵入していません。NATO加盟国が相互に行使する集団的自衛権が効果を発揮しているからです。
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