
ロシアがウクライナに侵攻して1年がたつ。この事態は、21世紀に暮らす我々に何を意味するのか。東京外国語大学の篠田英朗教授は地政学の視点から読み解く。ロシアの行動はマッキンダー地政学で説明できる。「ハートランド」であるが故に取るロシアの拡張行動は、現行の国際秩序から見れば「挑戦」と映る。
(聞き手:森 永輔)
ロシアがウクライナに侵攻してから1年がたちます。これを機に、この出来事が歴史において持つ意義と今後の展開について考えていきたいと思います。篠田さんは、今回の侵攻を地政学と国際秩序の視点から論じられています。
篠田英朗・東京外国語大学教授(以下、篠田氏):地政学の視点から今回のウクライナ侵攻を見ると、地政学の始祖と呼ばれるハルフォード・マッキンダーが『地理学からみた歴史の回転軸』の中で展開した「ハートランド」の説明が当てはまります。

マッキンダーの説を要約すると以下になります。
(1)ユーラシア大陸は「世界島」。その中央部は「ハートランド」。
(2)ハートランドは外界から侵入されることのない遮断された場所。背後の北極は無人地域で脅威とならない。ハートランドを流れる川の多くは北極海に流れ込むので、周囲の勢力は川を上って侵入することができない。
(3)東欧の大平原だけは周囲とつながる広大な交通路。
(4)大洋に通じる川がないので、不凍港を求めて南への拡張政策を取る。
そして、ハートランドが南へ、そして外洋へと向かう拡張主義を抑えるため、世界島の周辺(アウタークレセント)に位置する島国(海洋国家、シー・パワー)はハートランドを押さえ込む政策を取らざるを得ない。
ハートランドは事実上、ロシアを意味します。そして、海洋国家は英国、日本、オーストラリア、米国など。マッキンダーは米国を巨大な島と見なしました。
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