「戦略的忍耐」発言にも踊らず
ただし、これらは言葉だけの話。政策が具体的にどうなるかは分かりません。なので、中国政府は強い反応は示しませんでした。習近平国家主席も「米中両国による協力が大切だ」と強調するにとどめました。台湾をめぐっても、バイデン大統領が台湾への威圧をやめるよう求めたのに対し、習近平国家主席は「国内問題である」と型通りに返答しただけでした。
中国はアントニー・ブリンケン国務長官に厳しい言葉を投げつけられても、強く反応することはありません。同様に、中国にとって有利と受け取れる米高官の発言にも、はしゃぐことなく冷静です。ジェン・サキ大統領報道官が1月25日の会見で、中国に対して「いくらかの戦略的忍耐を持ちながら臨みたい」と発言しました。
この表現は、オバマ政権が北朝鮮に対する方針を説明するのに用いたのと同じ表現。日本では大騒ぎになりました。オバマ政権は北朝鮮に対して、結局何もしなかったからです。「中国に対しても何もしない考えなのか」との懸念が広がりました。
小原:そうですね。中国の反応は、日本が過剰に反応したのとは対照的でした。中国は「米国が北朝鮮に対して取った『戦略的忍耐』とサキ発言とは異なるはずだ。米国内の問題への対処に忙しいので、中国のことはしばらく静観するという意味にすぎない」と発言の趣旨を正確に理解していました。大事なのは言葉じりではなく行動だ、と考えているのです。
中国は、いまは「様子見」の時期と見定めているのでしょう。バイデン政権のアジア政策や対中政策が固まるまでに1年程度を要するとみています。その間に中国が能動的に動けば、有利な環境が築けるとも考えている。
2020年末に、EU(欧州連合)との投資協定「包括的投資協定(CAI)」で大筋合意したのは、こうした姿勢の一端を示すものです。この協定には「欧州に譲る部分が大きく、中国にどんなメリットがあるのか」との批判が中国国内で起きました。けれども、中国の目的はEUとの協力関係を深めることにありました。たとえ、この協定から得られる経済的メリットが、欧州が得るものに比べて小さかったとしても、かまわないのです。
中国は貿易において、東はTPP(環太平洋経済連携協定)に、西はTTIP(環大西洋貿易投資協定) に固められ、経済的に封じ込められる事態を懸念していました。CAIを締結することで、「中国封じ込め」を避けることが重要な目的の1つだったと考えられます。
王毅外相が1月半ばに東南アジア諸国を歴訪したのも同様の意図です。バイデン政権の手が及ぶ前に、関係強化を図ろうとした。この意味において、ミャンマーの状況は中国にとって好都合です。クーデターを受けてバイデン政権が自ら制裁強化に向かっているのですから。ミャンマーの軍事政権は中国寄りにならざるを得ません。
2021年の後半になって、バイデン政権が対中方針を固め、例えば封じ込め政策を進めようとしても、もうできない状況を中国はつくり出そうとしているのです。
軍事面でも同様です。中国は軍備の増強も加速させ、バイデン政権が軍事力を行使できない環境をつくろうとしています。
米国が新型コロナ対策や分断修復のため政治リソースを割かなければならない状態にあるのを、中国は「ラッキー」ととらえているのでしょうね。
小原:それよりは、もっと切羽詰まった意識でしょう。「この間になんとかしないと危ない」という強い危機感を抱いていると思います。
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