
バイデン政権は「香港」「台湾」問題を挙げ、中国に対し強い言葉で臨む。これに対し中国は3つの選択肢を挙げる。そのいずれにも「競争」の文字が入る。中国は競争が不可避との危機感の下、バイデン政権が内政に足を取られているうちに、有利な環境を築く考えだ。中国の安全保障政策に詳しい小原凡司・笹川平和財団上席研究員は、こう指摘する。
(聞き手:森 永輔)
(「なぜ今、台湾有事が懸念されるのか」も併せてお読みください)
ジョー・バイデン氏が1月、米国の大統領に就任しました。バイデン政権になって、対台湾政策はどう変わるでしょう。
小原:いまのところ姿勢に変化はみられていません。台湾に対して軍事的圧力を加えるのをやめるよう中国に求めています。ただし、具体的にどのような政策を取っていくかは、まだ見えない状況です。
中国も、政権交代によって米政府の姿勢が変わるとは思っていないでしょう。
バイデン大統領「中国への圧力を弱めはしない」

笹川平和財団 上席研究員
専門は外交・安全保障と中国。1985年、防衛大学校卒。1998年、筑波大学大学院修士課程修了。1998年、海上自衛隊第101飛行隊長(回転翼)。2003~2006年、駐中国防衛駐在官(海軍武官)。2008年、海上自衛隊第21航空隊副長~司令(回転翼)。2010年、防衛研究所研究部。軍事情報に関する雑誌などを発行するIHS Jane’s、東京財団を経て、2017年10月から現職。(写真:加藤 康)
台湾の駐米代表に相当する蕭美琴氏をバイデン大統領の就任式に招待しました。バイデン政権はこれによって中国や台湾に対してどのようなメッセージを発信したのでしょう。
小原:私は、この招待は米国内向けのメッセージだったと理解しています。「中国に対する圧力を弱めることはない」という意志を示した。台湾問題は、香港における人権、民主主義の問題につながります。バイデン政権はこれを重視するとアピールしたのだと思います。
「バイデン政権は中国に対する圧力を弱めるのではないか」という懸念が浮上していました。これを否定する意味があったと考えます。
民主党左派を意識したということですか。バイデン氏は民主党予備選の過程で、バーニー・サンダース氏をはじめとする民主党左派の協力を得ることに成功しました。しかし、その分、左派の意向を取り込む必要に迫られることが懸念されています。左派は特に、人権問題を重視します。
小原:民主党左派だけでなく、共和党も意識したものでしょう。「中国に対して厳しく当たるべきだ」という姿勢は、共和党と民主党の垣根を越えて、米議会のコンセンサスになっています。
ただし、バイデン政権はトランプ政権と異なり、高官を台湾に派遣する回数を少なくしたり、まったく派遣しないようにしたりする可能性はあるでしょう。中国としては、蕭美琴氏を大統領就任式に招待したことより米高官の訪台の方が気になることだと思います。
トランプ政権では、アザー厚生長官(当時)が2020年8月に訪台。米国と台湾が1979年に断交して以来、最も高位の米当局者の訪台として注目されました。翌9月には、米国務省のクラック次官(経済成長・エネルギー・環境担当、当時)が訪台し、李登輝・元総統の告別追悼礼拝に参列しました。同氏は、これまでに訪台した国務省の高官の中で最高位の人物です。
その後、2021年1月には米国連大使の訪台が予定されましたが、こちらはキャンセルになりました。トランプ支持者による議事堂占拠が影響したとみられています。
2月10日には、バイデン大統領と習近平(シー・ジンピン)国家主席が、バイデン氏が大統領に就任して初めて電話会談しました。このときのやり取りから読み取れるものはありましたか。バイデン大統領は習近平国家主席に厳しい言葉で懸念を表明したと伝えられています。その範囲は、中国が経済において取る威圧的かつ不公正な行い、香港への統制の強化、新疆ウイグル自治区での人権侵害、台湾への威圧などに及びました。
小原:バイデン政権は「中国に対する圧力を弱めることはない」という姿勢をなるべく早く示す必要があると考え、電話会談に臨んだのでしょう。
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