「中華民国」の呪縛
中国の主張では、台湾は中国の一部です。中国がこれを前面に押し出して、法執行の名目で台湾に対し武器を使用することはありませんか。
小原:中国がそのように主張しても、国際社会がその主張を認めなければ中国は困るでしょう。
台湾は今も中華民国を名乗っています。これは「台湾は『中国』である」と主張しているのと同義です。国際社会は中華人民共和国と中華民国という2つの「中国」を同時に認めるわけにはいきません。このため、現在は多くの国が中華人民共和国を「中国」として認めています。
けれども、そのことと、台湾が中国に属することとは別問題です。中国としては、台湾において武器を使用するより前に、台湾の位置づけを国際社会に認めさせる必要があると考えます。
ちなみに中国は、「台湾が中華民国を名乗る限り、『中国』として国際社会に認められることはない」という現在の状況は台湾にとって呪縛であり、中国を有利にするものと理解しています。
中国が台湾の独立を警戒するのは、この有利が崩れる恐れがあるからです。独立すれば、領土の一体性が崩れるだけではありません。例えば台湾が中華民国の名称を捨て「台湾」を名乗って独立するならば、「中国」ではない別の国として国際社会が承認する可能性があります。そうなることを、中国はものすごく嫌っています。
冷戦ならぬ、「冷武統」が浮上
中国が持つ管轄権の範囲内に台湾があることを国際社会に認めさせる手段はあるのでしょうか。
小原:中国はいま、法治中央建設計画と呼ぶ取り組みを進めており、この中で、台湾を対象に一国二制度を実現するための法案をつくるべきだと主張しています。そのような趣旨の法律がいずれつくられるかもしれません。
しかし、これを台湾が受け入れることはないでしょう。先ほどお話ししたように、香港問題を契機に台湾は中国への不信感を高めています。
そのような環境で、最近「冷武統」という言葉を目にするようになりました。現実に軍事力を使って台湾に侵攻するのではなく、台湾に軍事的な圧力をかけて交渉のテーブルに着かせ、脅しをかけて「1つの中国」を認めさせる。
「冷」は冷戦の冷と同じですね。冷戦は「戦わない」戦争でした。「冷武統」は「戦わない」武力統一を指す。
小原:そうです。台湾が「1つの中国」を認めれば、「台湾は中国の管轄権の下にある」と中国は強く主張できるようになります。管轄権は1つしか存在しないわけですから。
ということは、「1つの中国」を認めている国民党が台湾の政権に就いている期間なら、中国は台湾に対し、法執行の名目で武器が使用できるということになりませんか。
小原:「1つの中国」を認め、台湾が大陸の一部であるということになれば、理論的にはそういうことになります。ただ、国民党の馬英九政権も、台湾が大陸の一部であると認めたわけではありません。あくまで、「中国は1つである」という認識を共有したということです。92コンセンサスと呼ばれます。
また、馬英九氏が台湾総統だった時代も、米国は台湾を「民主的な政治体制を取る地域」として中国と区別していました。なので、容易には進まないでしょう。
さらに、台湾が中国の一部という認識が広がったとしても、武器使用の規模や内容も問題になります。武器使用は、警察権の行使と認められる範囲で行われる必要があるのです。現在では、人権侵害は国内問題ではなく、国際問題として扱われます。
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