海警法、武器使用を「法執行」であると認めさせる
今後、台湾をめぐってどのようなことが起こり得るでしょうか。中国は海警法を2月1日に施行しました。台湾を国内の省の1つとみなす中国が台湾近海で海警局の活動を活発化させる懸念も浮上しています。
小原:海警法は、海上警備にあたる海警局に武器の使用を認める点が注目されています。しかし、海警局が台湾周辺で大規模な武器使用を近い将来に行うとは限りません。まずは、武器の使用が「法執行」(いわゆる警察権の行使)であると国際社会に認められる環境を整える必要があります。
武器の使用が法執行なのか国連憲章が禁じる「武力行使」なのかは重要な意味を持ちます。仮に、国連海洋法条約上の仲裁裁判所などが、中国が武力行使したと判断すれば、中国は国際社会から強い非難を浴びることになるでしょう。
国際法はこの2つを区別してはいるものの、誰が行ったか(行為主体)によって区別するわけではありません。両者を分ける根拠はむしろ、何を理由に行われたのか、どこで行われたのか、にあります。国内法令に対する違反を取り締まるための行為として武器が使用されたと認められれば、武力行使ではなく、執行管轄権の行使と判断されます。その意味で、「海警法」の制定は必須であったのだと言えます。
また、中国の領土・領海内であれば、武器を使用しても法執行と認められるでしょう。しかし、尖閣諸島などの係争地で使用した場合、国内法令違反の取り締まりではなく、国に対する領土問題を解決するための武器使用と認められる可能性が高くなり、行使主体が海警局であっても、その行為が法執行と認められるとは限りません。
なので、中国としてはまず、武器の使用が「法執行」であると認められる環境を整える必要があるのです。具体的には、尖閣諸島周辺海域などで経済活動を営み、中国政府がそれを管理する実態をつくる。それを、米国をはじめとする諸外国の世論に訴え、認めさせる。
一方で、台湾に関しては、他国との係争区域ではなく、台湾が中国の一部であって国内問題として取り扱われるのか、国際問題として取り扱われるのか、が問題になります。中国は、台湾に関する事象は国内問題であるということを国際社会に認めさせるための世論工作やインフルエンス・オペレーションなどを展開することになります。
いずれにしても、武器を使用した際に、国内法令違反への対処であると認めてもらう必要があるのです。
「海警法」については、他に2つの懸念があります。
1つは、尖閣諸島の周辺海域で次のような事態が起こる可能性が考えられることです。同諸島周辺の日本の領海内で操業している漁船に対し、違法操業だとして停船命令を出す。拿捕(だほ)されることを恐れて漁船が逃げようとすれば、これに対して武器を使用する。
もう1つは、海警法第21条が外国の軍艦や公船に対して強制退去を命じることができると定めていることです。「武器使用」と明示的に書かれているのではありませんが、強制措置は武器使用を含むと解釈することができます。
海警局が外国軍艦を武器を使用して退去させようとすれば、大きな問題になるかもしれません。軍艦に対する武器の使用は、その理由にかかわらず、その国に対する武力行使と認められる可能性があるのです。1隻の軍艦に対する武器使用が自衛権を発動させるのに十分である可能性を排除しない、といった国際司法裁判所の判断が存在します。
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