経済安全保障政策が動き始めた。政府・自民党は経済安全保障推進法(仮称)の法案づくりを進める。経済安全保障に関わる政策は、罰則や統制など企業の行動をしばる要素が含まれる。国の主権を守ることとビジネスの自由との相克をいかに考えるべきか。自民党で陣頭指揮をとる高市早苗・政調会長に聞いた。
(聞き手:森 永輔)
岸田文雄政権が誕生し、経済安全保障担当大臣が新設されました。今国会では経済安全保障推進法(仮称)の審議が予定されています。この分野の政策がいよいよ本格的に始動します。自民党の経済安全保障対策本部長として陣頭指揮をとる高市さんが最も重視すべきと考える点を3つ挙げていただけますか。
高市早苗・自民党政務調査会長(以下、高市):第1は重要技術の保全と育成です。重要技術の代表例は量子技術やAI(人工知能)。どちらも革新的であり、進展が速く、国家間の競争が激化しています。こうした重要技術を特定し、国がリスクを取るチャレンジングな支援を拡充していくことが大切です。

自民党政務調査会長。1961年生まれ。神戸大学を卒業して松下政経塾へ。米連邦議会Congressional Fellowなどを経て、1993年、衆院議員に初当選。総務大臣や内閣府特命担当大臣、自民党政務調査会長を歴任。総務大臣として史上最長在職期間を記録(写真:菊池くらげ、以下同)
第2は基幹インフラ産業における安全と信頼を確保することです。自民党は2021年衆院選の選挙公約において、海外からのサイバー攻撃が激増する中で、サイバー防御体制の樹立と高度化、情報セキュリティー産業の育成をお約束しました。
そして第3は、サプライチェーンと技術基盤の強靱(きょうじん)化です。新型コロナウイルスの感染拡大が始まったとき、マスクや医療用手袋の供給が困難となるなど、サプライチェーンの脆弱性が顕在化しました。医療用品に限らず、供給が途絶した場合に大きな影響が起きかねない物資について、安定した供給を図る必要があります。
機微技術を守るため罰則は必要か
3つの重視すべき点はいずれも、企業の協力を得なければ実質を伴うものになりません。なので、政府と企業との関係についての考え方をお伺いします。
経済安全保障推進法(仮称)の法案づくりが進む過程で、情報を漏洩した企業に罰則を与える案が検討されている、と耳にします。高市さんは、罰則の導入についてどのようにお考えですか。
高市:2つのケースが考えられます。最も重視すべき点の第1として挙げた、重要技術を保全・育成する一環として、不可欠性を持つ技術*を確立すべく官民の協力を推し進めます。国立の研究機関と民間企業が協力して、技術の開発を進める案件が増えていくでしょう。そのとき、対象とする技術が、武器に応用できるなど機微なものであれば、民間企業にも公務員並みの守秘義務を課すべきだ、という意見が有識者会議で出ています。
もう1つは特許の公開制限に関わるケースです。経済安全保障推進法では、機微な技術について、特許が申請されても政府が非公開にできる仕組みを取り入れる方向で議論が進んでいます。この場合、外国に特許を申請することもあきらめていただくことになります。もちろん、逸失利益は補償するようにします。現行制度では、申請から1年半たつと自動的に公開される仕組みになっています。
この非公開にした技術を開発者らが外に漏らしてしまうと非公開にする意味がありません。G20(20カ国・地域)で秘密保持条項がないのは日本とアルゼンチンとメキシコのみです。罰則を設けるべきかどうかについては、有識者会議で議論しています。
Powered by リゾーム?