北朝鮮が核実験やICBMの発射を示唆した。これは方針転換なのか(写真:AFP/アフロ)
北朝鮮が核実験やICBMの発射を示唆した。これは方針転換なのか(写真:AFP/アフロ)

2022年に入るやいなや、北朝鮮が4度にわたってミサイルを発射した。さらに、1月19日にはICBM(大陸間弾道ミサイル)や核兵器の実験再開を示唆した。北朝鮮の行動は過激さの度を増している。いま日本にできることは何か。韓国と北朝鮮の動向に詳しい木宮正史・東京大学教授に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

北朝鮮が2022年に入り、4度にわたってミサイル実験を繰り返しました。極めて異例の頻度です。北朝鮮はなぜ今このような行動を取っているのでしょう。

木宮正史・東京大学教授(以下、木宮):北朝鮮の外交・安全保障政策が大きく変わったということはないと考えます。

<span class="fontBold">木宮正史(きみや・ただし)</span><br />東京大学教授。専門は朝鮮半島地域研究、韓国政治外交論。<br />1960年生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科の博士課程単位取得退学。韓国高麗大学大学院政治外交学科の博士課程修了(政治学博士)(写真:加藤 康、以下同)。
木宮正史(きみや・ただし)
東京大学教授。専門は朝鮮半島地域研究、韓国政治外交論。
1960年生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科の博士課程単位取得退学。韓国高麗大学大学院政治外交学科の博士課程修了(政治学博士)(写真:加藤 康、以下同)。

 実は、冷戦が終焉(しゅうえん)となり、1990年代になって以降、北朝鮮の政策は金政権の維持で一貫しています。そのために、北朝鮮の存在を米国に認めさせたい。それも対等な形でです。そのようなことはあり得ない話ではあるのですが、金政権としては国内においてメンツを保つ必要があります。

 そして、対等な形で交渉するためには、米国の軍事力を抑止すべく米本土を射程に収める核ミサイルが必要と考えている。「核保有国として、米国が軽視できないようにする」との意図です。最終的には米朝国交正常化を目指す。

 今回の4度のミサイル実験も、この変わらぬ政策に基づいています。日米韓はミサイル防衛システムを強化してきました。さらに、日本と韓国の一部では、北朝鮮のミサイル発射拠点をたたく敵基地攻撃能力の議論が熱を帯び始めています。北朝鮮はこれらの措置に妨げられることのない核ミサイルを引き続き開発する意向です。

岸田文雄政権は、敵基地攻撃能力の保有も含め「あらゆる選択肢を排除せず検討する」としています。

木宮:韓国でも、保守系最大野党「国民の力」の大統領候補である尹錫悦(ユン・ソギョル)前検察総長が「敵基地攻撃能力を備えるしかない」と発言しています。

 こうした環境において北朝鮮は、ミサイル防衛システムによって迎撃される確率を下げるための変則機動や、敵基地攻撃を回避するための鉄道車両からの発射など、機能向上を図っているのです。北朝鮮も自らが持つミサイルの能力に自信満々というわけではありません。実験を繰り返すことで性能向上を図る途上にあります。

 過去2年はおとなしくしていました。新型コロナウイルス感染症が広がり鎖国状態にあったからです。しかし、その状態が変わりつつあります。最近、北朝鮮・中国間で貨物列車の運行が再開したと報じられました。こうした環境変化の下でミサイル実験も再開したのでしょう。

 とはいえ、米本土を射程に収めるICBMや核兵器の実験をするわけにはいきません。これらは米政権がレッドラインとするところですから。なので、米国の同盟国で米軍基地のある日本や韓国を攻撃対象とするミサイルで実験をしているとみられます。ジョー・バイデン米政権は同盟国との連携を重視しています。この方針も、北朝鮮が日本と韓国を攻撃対象とするミサイルの強化を進める要因となっているでしょう。

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