年が明け2022年に入るやいなや、北朝鮮が4度にわたってミサイルを発射した。これは極めて異例の高頻度だ。北朝鮮はなぜ今、このような行動を取ったのか。日本はいかに対処すべきか。朝鮮半島研究の重鎮、武貞秀士氏に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

北朝鮮が飛翔体を連射(写真:AFP/アフロ)
北朝鮮が飛翔体を連射(写真:AFP/アフロ)

北朝鮮が2022年に入り、4度にわたってミサイルを発射しました。これは極めて異例の高い頻度です。しかも、1月5日と11日は北朝鮮が「極超音速ミサイル」と主張するもの、1月14日と17日は短距離弾道ミサイルと、異なる種類のものを発射しました。

武貞秀士・拓殖大学大学院客員教授(以下、武貞):理由は大きく2つ考えられます。1つは、金正恩(キム・ジョンウン)総書記がミサイル開発を促進するようハッパをかけたこと。もう1つは、朝鮮労働党の最高幹部の1人、朴正天(パク・ジョンチョン)党書記・国務委員がその立場の保持を図っていることです。

<span class="fontBold">武貞 秀士(たけさだ・ひでし)氏</span><br />拓殖大学大学院客員教授 専門は朝鮮半島の軍事・国際関係論。慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。韓国延世大学韓国語学堂卒業。防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。2011年、統括研究官を最後に防衛省退職。韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書に『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所)、『防衛庁教官の北朝鮮深層分析』(KKベストセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(PHP研究所)など。
武貞 秀士(たけさだ・ひでし)氏
拓殖大学大学院客員教授 専門は朝鮮半島の軍事・国際関係論。慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。韓国延世大学韓国語学堂卒業。防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。2011年、統括研究官を最後に防衛省退職。韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書に『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所)、『防衛庁教官の北朝鮮深層分析』(KKベストセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(PHP研究所)など。

ミサイル強化の5カ年計画を着実に実行

 まず第1の理由について説明しましょう。朝鮮労働党が2021年12月に中央委員会総会を開いた際、金正恩総書記がその場で「国家防衛力強化を遅らせてはならない」と述べました。戦術兵器、戦略兵器の技術革新を急ぐという意味です。

 この発言には前提があります。北朝鮮は2021年1月の労働党大会において「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」を定め、ミサイル開発において以下の5点を重視する方針を打ち出しました。第1は極超音速ミサイルの完成、第2は固体燃料ロケットと誘導技術の改善、第3は潜水艦発射弾道ミサイルの完成、第4は大型核弾頭の生産、第5は戦術兵器(小型核弾頭を含む)生産の推進です。これら5つを貫く軸はミサイルの「多様化」です。

 この方針に基づいて開発を進め、2021年の秋に実験を繰り返しました。

9月15日には短距離弾道ミサイルを鉄道車両から発射。9月28日には「新たに開発した極超音速ミサイル『火星8型』」と呼ぶものを、10月19日には新型の潜水艦発射型弾道ミサイルを発射しました。

武貞:金正恩総書記の12月の発言は、この一連の実験で積み残した技術面での確認を実施するよう促したものとみられます。これを受けて、この1月に集中的に実験を行うことになったわけです。

 北朝鮮は5つの強化ポイントの中でも特に固体燃料の技術向上を重視しています。液体燃料と異なり注入に時間がかからず移動も容易になるので、秘匿性、即時性が高まり、奇襲的な攻撃が可能になるからです。ただし固体燃料エンジンは液体燃料エンジンと異なり、エンジンだけを個別にテストすることができません。実際に発射する必要があるのです。

ミサイル実験で返り咲いた軍トップ

朴正天氏はどのような人物ですか。

武貞:北朝鮮の核・ミサイル開発を率いてきた人物で、軍のトップである総参謀長を務めたこともあります。ミサイル開発一筋の軍人ですが、9月上旬に労働党の最高意思決定機関である党中央委員会政治局の常務委員に選ばれました。

 この人物は過去に2度の降格の憂き目に遭っています。2013年に上将(大将と中将の間)に昇格したものの、2015年に少将に降格させられました。また2020年に元帥に昇格したものの2021年6月には次帥に降格となりました。

 それが、9月に労働党中央委員会の政治局常務委員になり、9月29日には、国家の最高意思決定機関である国務委員会の国務委員に最高人民会議で抜擢されました。

 2021年秋の一連のミサイル実験を成功させたことが評価されたのです。2度の降格から復活したあと、新型ミサイルの開発と実験成功によって今の地位を得た同氏は、この地位を維持するべく、ミサイル実験を成功させ続けなければなりません。

次ページ 固体燃料エンジンと誘導技術を将来のICBMに