「武力を行使しなくても国を崩壊させることができる。医療用マスクの供給が止まれば医療崩壊が起きる」。自民党の甘利明・前幹事長はこう警鐘を鳴らす。国の崩壊を避けるため企業の役割は大きい。だが「その危機意識は乏しい」(甘利議員)。それはなぜか。喫緊の課題とは。
(聞き手:森 永輔)
岸田文雄政権が誕生し、経済安全保障担当大臣が新設されました。いよいよ、この分野の政策が本格的に始動します。自民党・新国際秩序創造戦略本部の座長として、経済安全保障政策の必要性を早くから訴えてきた甘利さんが重視すべきだと考える点を伺いたいと思います。
その前に、甘利さんが経済安全保障に関わる危機感を抱くようになったきっかけを教えてください。
甘利明・衆院議員(以下、甘利):第1は、2010年に起きた沖縄県・尖閣諸島での中国漁船衝突事件です。同諸島沖の領海内で違法操業する中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりする行為があったため、日本はこの漁船の船長を逮捕しました。これに反発する中国は、レアアースの日本向け輸出の手続きを遅らせるなどして、日本政府の処置を撤回させようと図ったのです。

自由民主党所属の衆院議員。1949年生まれ。慶応義塾大学法学部を1972年に卒業し、ソニーに入社。1983年に初当選。以降、政府で経済産業大臣や内閣府特命担当大臣(経済財政改革)・経済再生担当を、党で政務調査会長や幹事長を歴任。環太平洋連携協定(TPP)担当相として交渉を主導した。(写真:加藤 康、以下同)
レアアース(希土類)は電気自動車(EV)などの製造に欠かせない材料。サプライチェーンのチョークポイント(急所)を握られることの恐ろしさを痛感しました。
DXが脅威の度を高める
経済安全保障に関わる危機をさらに深めているのがデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展です。情報活用が進む今日、データが持つ価値は20世紀の石油に匹敵します。例えばスマートシティーはデータがないと成り立ちません。その虎の子のデータを容易に窃取できる時代になりました。チョークポイントとなるデータを押さえられることがあれば、その勢力に逆らうことができなくなってしまいます。
データをめぐって、米ブルームバーグが2018年に衝撃的な報道をしました。米スーパーマイクロが中国の下請け会社で製造したサーバーにスパイチップが組み込まれていたというのです。この米粒ほどの大きさのチップは本来の設計には載っていないもので、外部との通信機能を備えていました。組み込みに中国人民解放軍も関与していたといいます。同社は、米国防総省や米中央情報局(CIA)、アップルなどにサーバーを提供していました。
例えばスマートシティーや政府、企業、研究機関が使用するIT(情報技術)機器に同様のスパイチップが組み込まれ、データが元から抜かれるようなことがあれば、巨額の投資をして高い技術を生み出しても意味をなしません。
Powered by リゾーム?