対中政策、米政府の全省庁が姿勢を硬化

トランプ大統領の対中政策はどう評価しますか。

久保:中国に対して厳しい態度を取り、関税をはじめとする大規模な制裁措置を講じました。中国の前に立ちはだかる姿勢を示したことは評価できます。これができる経済の規模と軍事力を持つのは世界で米国だけです。

 前任のオバマ大統領は妥協的で、米国の対中政策の基本を「関与(engagement)」としていました。責任あるステークホルダーとなるよう仕向ける、というものです。トランプ大統領はこれを否定し「ヘッジ」の方向に明確にかじを切ったのです。強い発言を繰り返し、その姿勢を米政府全体に波及させました。米国では「a whole of government push back」と呼ばれるもので、全省庁が対中姿勢を硬化させました。例えば司法省は中国スパイの摘発に力を入れた。商務省は、中国半導体最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)を輸出管理の対象に加えた。国務省は、中国人民解放軍との関係が疑われる自然科学系研究者へのビザ発給を厳しくしています。

軍事アセットのアジアシフトはどうだったのでしょう。オバマ政権時代に「リバランス」(アジアへの移転)を掲げました。その後、トランプ政権がどうしたかあまり伝えられていません。

久保:トランプ大統領は軍事面でも対中姿勢を強めました。まず軍事予算を拡大。南シナ海における「航行の自由作戦」*も強めています。加えて、その内部文書に、中国が主張する第1列島線内も防衛の対象とすると明記したことが最近報道されました。台湾や尖閣諸島が防衛の対象になることを示します。台湾への武器売却は質・量ともこれまでの政権を上回ります。

*:中国が「領海」と主張する人工島の周辺12カイリ内に軍艦を航行させること。この海域を「中国の領海とは認めない」ことを示す行動

 「自由で開かれたインド太平洋」構想をぶち上げたのもこの一環です。

同構想は安倍首相(当時)が最初に提唱し、米国が乗ってきたものですね。

久保:確かにそうですが、米国の方が徹底しています。日本の構想は経済支援に重心があるとともに、その対象地域をケニアからカリブ海まで非常に広く取っています。これに対して米国の構想はより中国にフォーカスし、軍事的に対抗する意思を明確にしています。

 こうした対中政策の変化はトランプ大統領自身のイニシアチブに加えて、米国世論の変化が背景にあると考えます。トランプ政権の後半2年間は、野党である民主党が下院で多数を占めましたが、それでも中国に対して厳しい法律を相次いで成立させました。中国が長年続けてきた一方的な行動がこうした変化を促しました。

思い付きとパフォーマンス重視の北朝鮮政策

対北朝鮮政策はどう評価しますか。2018年6月、金正恩(キム・ジョンウン)委員長(当時。2021年1月、総書記に就任した)と史上初の首脳会談を実施しました。これを含めて、合計3回の首脳会談を実施しています。

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