習近平国家主席に再選支持を依頼

第2の政治姿勢はいかがでしょう。

久保:政治姿勢というのは、大統領としての倫理観を保持しているか、真実を語っているか、政策を進めるにあたって透明性を確保しているか、などを言います。透明性は、公私混同はないか、利益相反はないか、といったことです。

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)

 政治姿勢については不合格と言わざるを得ません。まず、不正確な発言がかなりの数に上ります。米ワシントン・ポストはトランプ大統領の発言を逐一チェックし、1日あたり約15のうそを言っていると報じていました。特に、言及する数字はたいていでたらめでした。

 透明性についても合格点はつけられません。納税記録を公表することは最後までありませんでした。娘のイバンカ氏を要職に就けるなど、家族を重用。司法長官については「自分を守る存在」と位置付けているふしがありました。

 そして倫理性。トランプ大統領の発言には人種差別を助長し分断を深めるようなものが数多くありました。これは、特定の支持者からは強く支持されましたが、その一方で、女性やマイノリティー、それに理解を示す白人リベラル派に嫌悪を抱かせました。

 その典型は、これまで共和党を支持してきた白人で高学歴の女性たちです。彼女らの多くはトランプ大統領の姿勢と発言に耐え難さを覚え、民主党支持にくら替えしました。

 すべての行動は「再選のため」だったとの印象を強く受けます。トランプ政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏は回顧録で「トランプ大統領が中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談した際、『自分の再選を助けてくれ』と発言していた」と暴露しています。

新たな支持層の開拓に決定的に失敗した

 政治姿勢は、第3のポイントである支持率に関係します。トランプ大統領の支持率の推移を振り返ると、就任当初から50%を割り込んでいました。これは異例のことです。就任から100日間は「ハネムーン期間」と呼ばれており、国民もメディアも野党も批判を和らげます。このため、大半の大統領の支持率は60%程度に達するものです。

その数字は45%で、過去最低でした。

久保:その後も、不支持率が支持率を上回る状態が終始続きました。一般に、大統領の支持率はそのときの経済情勢に強く左右されます。先ほどお話ししたように、2020年2月まで米国経済は絶好調でした。本来であれば支持率が上がってしかるべき情勢でしたが、それでも50%を上回ることはありませんでした。

 他方、興味深かったのは、その支持率が最低でも37~38%を維持したことです。スキャンダルがあろうと、失言があろうと、トランプ支持を貫く「岩盤支持層」が存在していたわけですね。

支持率の下限は、歴代大統領はどの程度だったのですか。

久保:ジョージ・W・ブッシュ大統領(子ブッシュ、当時)の支持率はハリケーン「カトリーナ」が襲った際に30%を切ったことがあります。バラク・オバマ大統領(当時)の最低は40%前後でした。

 彼らと比べてトランプ大統領の支持率の下限値はすごく悪いわけではありません。とはいえ、問題なのは上限です。

 トランプ大統領は結局、新たな支持基盤を増やすことに決定的に失敗したのだと思います。2016年の大統領選挙を接戦の末ものにしました。2020年の大統領選挙でも約7400万票を獲得し、その絶対数を増やしました。しかし、それは従来の支持基盤をさらに掘り起こし、有権者に登録を勧め、投票所に足を運ぶよう大動員をかけることで実現したもので、新たな支持層を獲得したわけではありませんでした。

以上の3つのポイントを総合的に評価し、あえて点をつけると何点でしょう。

久保:100点満点で60点を合格として、60点を切ることは間違いありません。50点くらいでしょうか。

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